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残響 1

エミが、Kと付き合い始めたのは1年ほど前だ。

付き合い当初は美男美女のお似合いのカップルに見えたんだけれど、実際はあんまりうまくいってなかったようだった。
詳しくは知らないけれど、原因はKの浮気のようだった。

「なんであの人は私だけを見てくれないんだろ」

オレはエミからときどき相談を受けていたんだけれど、そのたびに辛いならちょっと距離を置いてみればとか、無難なことしか言えなかった。
というのは、エミが具体的な話をあまりしたがらなかったこともあるし、オレが聞きたがらなかったのもある。

本来なら親身に相談に乗って、Kからエミを奪うくらいのほうがよかったのかもしれないんだけれど、あんまり自分から話したがらないことを聞くのは失礼かもとか思ったり、なによりもオレが、大好きなエミから彼氏の話なんか聞くのは我慢がならなかった。


そんなエミがKと別れたのは半年ぐらい前だ。
どうやって別れたのかは、詳しくは知らない。ただエミは「もうついていけない」と言っていた。

そのあと本当にエミが、彼のことを忘れられたかといえばそうでもなかった。
エミがその彼のことがすごく好きなのは分かる。





だってオレの目から見てもKはかっこいいもの。で、かっこいいだけじゃなくて話もうまくて、大学での成績も優秀で奨学金とか貰ってたのかな、詳しくは分かんないけど、まあ、漫画に出てくるようなカッコイイ青年だった。
笑うと歯が光りそうなそんな感じ。そりゃもてるわな。

別れた後、見ててやばいくらい辛そうだった。
鬱になって、数日たってちょっと元気を取り戻したかと思うと、何かの拍子に泣き出すとかそんな感じで、オレは頑張って慰めたりしたんだけど、正直オレが役に立ってたのかどうか分からない。
こういうのって結局自分で立ち直るしかないだろうし。

で、エミと付き合うようになったのは1ヶ月ほど前。

「ゆうくんといると安心する…」
とかベタなセリフを言われて、

「オレはエミを泣かせない」
とかベタなセリフを言ったりして、いっつも一緒にいるようになった。

セックスしたのは1週間ほど前。
オレがエミの部屋に行って、肉じゃがとか一緒に作ったりして、ビール飲んで、帰りたくなくなっちゃって、エミに覆い被さっちゃった。

でもこれはちょっと失敗だったかもしれない。ことが終わって裸で抱き合ってたとき、

「ちょっとゆうくんの目、怖かった」
って言われた。

オレはそのとき男の嫌なとこが出ちゃってたし、エミはそういうのに敏感になってたらしく、もっと彼女が落ち着いてからにしようって思いなおした。
でも正直言うと、我慢できるかどうか、自分に自信がないとも思った。

裸でオレはエミの背中に張り付いて、そっと置いた手の平に感じた乳房は、手の平からあふれんばかりに張りがあって、とけそうなくらいどこまでも柔らかく、胸に感じるエミの背中は温かくしなやかで、すらりとしたエミの足を腿に感じながら、ずっとエミの中に沈みこんでたいって思った。

何日かすぎて、やっぱりエミの体が恋しくなっちゃった。なんかもうね、禁断症状みたいな感じ。デート中ずっと勃起しっぱなし。でも我慢した。今やっぱりオレ血走ってるし、そういうので抱いたりしたら、エミはやっぱり傷つくと思ったから。
 
「ねえKが久しぶりに会いたいって言ってきてるんだけど。ゆうくんも一緒で、Kの彼女も一緒で4人で遊び行かないかって」

正直いって、オレは気乗りしなかった。エミもちょっと不信に思ったりもしたらしいんだけど、できればKとは普通の友達に戻りたいらしく、まあ浮気癖さえなければ男にも女にもいい奴らしいし、ひょっとしたらエミに踏ん切りがつくいいチャンスかもしれないって、思ってOKした。


Kに会うまでは、本当オレ普通に振舞えるか心配だった。
でもKはすごいやつだった。3人相手に分け隔てなくしゃべって、オレの心配をほぐすように冗談を言ったり、わざと大げさにはしゃいだりして、なんか簡単にこっちの内側に入ってくるのね。またそれが嫌味がなくて。

で、一緒に連れてきた彼女も、名前はミオちゃんって言うんだけど、中性的な容姿のさばさばした娘で、笑いが絶えなくって、オレとかの背中バンバン叩くような娘で、オレ途中から、もういっかって感じで、楽しむようになった。

Kとミオちゃんがちょっと席を離したとき、
「あの二人、似合ってるね」
ってエミが呟いた。

「なんかKくんも、私の関係ないとこで生活送ってんだなって感じちゃった」
そう言ったエミは少し悲しそうだったけれど、なんか吹っ切れたみたいな顔をしていて、

「エミにはオレがいるから」って自然に口に出してた。そしたら、エミはすごい笑顔で頷いた。その笑顔が本当に可愛くて、そっとキスしたら、

「今はゆうくんのこと大好きだよ」て言った。

「私、こうやって普通にデートして、普通に手を繋いで、普通にキスするの、あこがれてたんだ」

それ聞いて、オレは今日来てよかったなって思ったんだ。本気でそう思った。

でも事態はその夜急展開する。

その夜、いったいどうやって目が覚めたんだっけ?
エミとKとミオちゃんと3人で遊びにいって、居酒屋で飲んで、Kの部屋に連れられてまた飲んで、広い部屋だねとか、絨毯がふかふかするとかそんな話をしていて、あんまり記憶がない。

ただ何度か、夢の狭間で大げさに騒ぐ女の笑い声が響いていた。たぶんミオちゃんの声だと思う。

次に目が覚めたときは、まるで不安定な斜面に寝そべっているように体がぐらぐらして、平衡感覚がまるでなかった。思わず手の平で床を支えたくらいだ。

手に毛の長い絨毯の感触があって、指で硬く握り締めたが、握力がまるでなかった。重力が頬を絨毯に押し付けていて、意識が柔らかさに埋もれている。

部屋はオレンジ色の薄暗い光りに包まれていたが、それが目を開けて感じているのか、目を閉じて感じているのかは分からない。
頭の奥で鼓動と共に光りが点滅して、視界がよく分からなかったのだ。

コメカミの血管が大げさに脈を打っている。喉奥に吐き気を感じ、口を閉じようとしたが力が入らず、舌がだらりと飛び出していた。

泥沼から這い上がるように意識が浮上してくると、かろうじて白熱灯の弱々しい光りを感じることができ、遠くで誰かの呼吸が聞こえていた。
部屋の隅で蠢く人影が朦朧と見える。

エミが床にだらしなく座り込んでいた。眠っているようにも見えたが、ときどきゆっくりと顔を上げてはがくんと前のめりになりそうになったりしていて、まるで上から糸で吊るされている人形みたいに見える。
おっぱいが誰かの手の平に揉まれていて、ゆらゆらと弾んでいる。

エミの顔の後ろにKらしき顔が見えた。KであってKでないような顔。
少なくともオレが見たこともないような、悪意のないまま悪意を働きそうな、ビニールを貼り付けたような笑顔。そんな笑顔のまま、エミの顎を引き寄せてキスした。舌が絡み合うのが見える。二人とも裸だった。

オレは夢の続きを見ているようで、意識を押し戻そうと弛緩した顎を閉じようとする。
でも顎の力がうまく入らず奥歯がガタガタと震えて、勝手に舌が垂れ下がった。なんだか体が変だった。少なくとも経験したことのない酔い方だった。

Kの指先は、エミのおっぱいの上で円を描くように動き、そっと乳首を刺激して、もう片手の指が腹を撫でながらゆっくりとエミの太ももの上に降りて足を開かせた。エミの秘部が白熱灯の光りを受けてテラテラと光り、濡れているのが分かった。

Kの指先は休むことなく動き、けれどもわざとエミの秘部には触れず、エミは軟体動物のように体をよじる。

「あれ、どうしたのかなエミちゃん?」

Kはにやにやしながらエミの反応を楽しんでいる。エミはKを睨みつけるが、思うように目に力が入らないのかすぐに弛緩して顔を逸らす。

「乳首すごく硬くなってるね」

Kはエミを後ろから支えながら、首筋や耳に舌を這わせ、まるで彼女を知りつくしているかのように指が体をなぞりあげる。

「エミ、えっち好きでしょ」

「そんなこと…ないもん」

「無理しなくていいよ、別れた後も俺の部屋に何度か来てたじゃん」

「だって…それは…Kが無理やり…んっ」

Kの指がエミのクリトリスに触れた。その瞬間にエミは声を上げて体を縮こめた。

「無理矢理じゃないでしょ」

「だって…いっつも話があるって…んんっ…呼び出しといて…」

何度か来てたって? え? オレと付き合ってたときも? ああ寄りを戻したのかな、よかったね。いや、そうじゃないだろオレ。ここは怒るところじゃないのか。そういえば今日の酒代って清算したっけ。なんだか思考が繋がらない。

体の表面が何だか冷たいが、内臓が焼けるように熱く、まるで皮膚が浮いているように感じる。オレは胎児のように横向きに体を縮こまらせていて、何故だか裸だった。

<続く>

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