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家出して不良に絡まれているところを関西弁の美人なお姉さんに…6

家に帰ると鬼の形相をした両親に迎えられた。

がーがー怒っていたけど、なぜだろう。
俺はそれがとても嫌だったのに、ふと思った。
2人も子供なんだろうな、って。

お姉さんがお姉さんだったように、お姉さんだけどお姉さんじゃなかったように、大人だって子供なんだな、って。

「俺さ、2人が喧嘩するのが嫌で家出したんだよ」

そういうと2人は黙ってしまった。

喧嘩の原因ってなんだろう。
考えてみれもどうでもいい。

頭の中でお姉さんが離れない。
お姉さんがいつまでもそこにいる。
お姉さんはそこにいるけど、俺の携帯はいつまでも鳴らなかった。

高校に無事入学して、夏。
バイトをしてお金を貯めて、お姉さんに会いに行く夏。

だけど、相変わらずお姉さんから着信は来なかった。

学校の友達もできた。
好きな人はできなかったけど。
と言うか、お姉さんを知って他に好きになれるとか、無理だろう。

結局、俺はお姉さんに会いに行かなかった。

臆病だったから?
不安だったから?

答えはまぁ、3年後。




高校を卒業してそのまま働くと伝えたら両親は落胆していた。

ちなみに俺の家出がキッカケか、あれ以来2人は不仲が解消したようだ。
少なくとも家で喧嘩はしていない。

しかも勤め先を遠くに選んだから余計だ。

理由を問われたけど、その街が好きだからとしか言えなかった。

就職はまあ、なんとかなった。
高卒なため、良いところとは言えんが選ばなけりゃなんとでもなる。

家も決めて、一人暮らしの段取りをしつつ、3月に入って俺は学校に行くのをやめた。
あとは卒業式以外どうでもいいわけだし。

それよりも何よりも俺にはやる事がある。

家を探す時や就活の時に訪れているわけだが、改めて来てみると不思議な感覚に襲われた。

あの都会の駅の前にある広場はどうにも健在らしい。

そこのベンチでぼうっと座っていると、お姉さんが…なんて事は流石にない。

暫く佇んで、お姉さんを探すべく歩き出す。
と言っても行く先なんて決まっている。
あのBARとマンションしか知らないんだから。

夜の20時過ぎ。

あのBARが開いている時間帯だ。

こうして見ると怪しい雰囲気だな、と思った。
お姉さんに連れられた3年前は気づかなかったが、これは1人で入れんと思った。

ドアを開けるとベルが鳴る。
店の看板とか何もないから不安だったけど、BARはまだやっているらしい。
中に入るとお客さんは1人もいなかった。

でも、1人だけ、その人はいた。
赤く長い髪の、綺麗なお姉さん。

「こんにちは」
「らっしゃーい」

どうやらお姉さんは俺の存在に気がついていないようで、これはこれで面白いと俺は自分を明かさなかった。

まあ、なんだかんだで今ではお姉さんより身長も高いしなぁ。

3年経ってもお姉さんはお姉さんだった。

綺麗ですっとしていてモデルみたいで。
大人の色気が増したと言えばいいのか、しかし18の俺に大人の色気はよく分からん。

「お客さん、初めてだよね?」
「ですね」

「何でこんな見つけづらいとこに」
「友達に聞いたんですよ。真っ赤な髪のマスターがいるBARがあるって」

「ああ、これ。ははっ、もういい年なんやけどねー」
「でもとってもお似合いですよ」

「あざーす。いや、何か照れるわー」
「どうして赤髪なんですか?」

「これ?これな、むっかあああああしの知り合いに褒められてなー」

死んでしまった人の事だろうか

「大切な想い出なんですね」
「いやそんなんどうでもええねんけどな、今となっては」

「?」
「ぷっ」

「どうしました?」
「いや、そんでなー」
「この赤い髪を綺麗ですね、って褒めてくれたガキンチョがおんねん」

「ガキンチョ」

「そうそう。そいつな、うちに惚れとるとか言いよったくせにな、くせにやで?携帯番号ちゃうの教えて帰ってん」

……うそん。

「連絡ください言うた割に連絡通じへんやん?どないせーってのな」

「そ、それはそれは」

冷や汗が沸き立つ。

まじで?
それで連絡こなかったの?

「会ったらほんまどつきまわしたらなあかんなぁ」

迂闊に名乗れなくなった。

「そ、それと赤髪がどういう?」

「ん?やからさ、あのアホンダラが戻ってきた時、うちのトレードマークがなかったら気づかんかもしれんやん?」

「そんな事……」

ありえて嫌だ。

お姉さんの赤髪とピアスは凄い印象強いから。

「ところでお客さん、何飲む?」
「おすすめのカクテルを」
「いや無理やわー」

とお姉さんはドン、っと机が揺れるぐらいの勢いでコップを置いた。

「自分みたいなガキンチョにはこれで充分やろ?」

それはいつか出されたジュースだった。

「……はは」

「ははっとちゃうわドアホ!いつまで待たせんねん!おばはんにする気かおどれぁ!」

「あ……バレてました?」

「バレバレや言うねん!君身長高くなっただけで顔つきほとんど変わってないやんけ!可愛いわボケぇ!」

「可愛いなんて、もうそんな年じゃないですよ」

「そこだけに反応すんなアホ!首傾げる仕草も何も変わってないいうねん……」


唐突にお姉さんは体を背けて顔を隠す。

ああ、お姉さんも変わってないな。

「どんだけうちが待っとったおもてんねん……」

ふるふると震える肩。

あの時もそうだった。
お姉さんは弱味を俺に見せたがらない。

恥ずかしい時も。
哀しい時も。
苦しい時も。
顔を背けてそれを隠す。

椅子を降りてカウンターの中に入っていく。

土台が同じ高さになったため、俺はお姉さんよりも大きくなった。

「ほんま、背高くなったなあ」
「牛乳飲んでますから」

「……君ええボケ言うようになったやん」
「そりゃお姉さんと一緒になるの、夢見てたんで」

「タバコは?」
「身長伸びませんから」

「迷信やろ」
「プライバシー効果ですよ」

「プラシーボ効果やろ」

自分より小さくなったお姉さんをそっと抱き締める。
自分の腕の中に収まるお姉さんは、とても可愛らしくて愛くるしい人だった。

「大好きですよ」
「あっそ」

「つれないですね」
「知るか、3年もほっとったアホ」

「どうしたら許してくれます?」
「そやな」

「とりあえず、うちより身長低くなりや」
「はい」

「うん、ええ位置やな」

引き寄せて、お姉さんはキスをする。
3年ぶりのキスは相も変わらず、優しくて、この上ない喜びが詰まっていた。

「なあ」
「はい?」

「うち、ええ歳やねんけど」
「結婚とか興味あるんですか?」

「君とする結婚だけ興味あるな」
「そうですか。じゃあ、暫くしたらしますか」

「なんでしばらくやねん」
「まだ新入社員ですよ、俺。いやまだなってもないのか」

「就職したん?ここがあんのに」
「それも悪くないんですけど、やりたい事もありまして」

「へえ、なんなん?」
「秘密です」

改めて席についてジュースを飲んだ。

「1つ気になってたんやけど」
「はい」

「なんで夏に来んかったん?」
「……そうですね…。連絡が来なくてムカついてたんで」

「君のせいやろそれは!」
「ですね。でもあの時の俺は本当にそうだったんですよ。恋人ができたのかな、って。だから3年溜めて、まずは社会人になって、もしダメだったら…」

「ダメだったら?」
「ストーカーにでもなろうと思ってましたよ」

「どこまで本気やねん」

「半分。ストーカーは冗談ですけど、仮に彼氏さんがいるなら奪おうとは思ってましたよ」
「本気やな」

「そりゃまあ、お姉さんは僕の人生を変えた人ですから」
「言い過ぎ……でもないんかな。うちの人生を変えたんは、君やしな」

「それは意外ですね」

「君はあの1週間をどう覚えとる?」
「妄想のような1週間ですかね」

「妄想て。雰囲気でんわ。でもうちにしたって、ありえん1週間やった。だってそやろ、家出少年匿って、色々あって、恋して」
「でもそういうの慣れてると思ってました」

「よく言われるけどなあ、そういうの。うちかてただの女やしな」
「……そうですね」

「そこは同意なんやな」
「もう18ですからね。お姉さんが普通にお姉さんに見えますよ」

「なんやそれ。ってか君、いつまでお姉さん呼ぶん?」
「お姉さんって呼ばれるの、好きなんだと思ってましたよ」

「嫌いちゃうけど、今の君に呼ばれるんは違和感しかないわ」
「でも」

「なんやねん」
「名前で呼ぼうにも名前知りませんし」

「……ほんまやな、うちも君の名前知らんわ」
「名前も知らない人を泊めてたんですか、いけませんよ」

「名前も知らんお姉さんに付いてったらあかんやろ、殺されんで」

「ほな」
「はい」

「○○○○です、よろしゅー」
「○○○○○です、よろしくお願いします」

「ははっ、何やねんこの茶番」
「っていうかお姉さん、意外に普通の名前なんですね」

「君は古風な名前やな。しっくりくるわ」

その後もお姉さん、もとい、○○さんとの会話は続いた。

お客さんが何組か来て、ついいらっしゃいませと言ってしまったりもしたけど、俺はお姉さんの家に泊まる事になった。

「コーヒーお願いします」
「飲めるん?ってそや、薄くせなな」

「そのままでいいですよ。あれ以来濃い目のしか飲んでませんし」
「何で修行しとんねん」

「○○と同じ味を覚えたかったから」
「……君、照れずにようそんな事言えるな」

「鍛えましたから」
「それ絶対間違っとるわ」

差し出されたコーヒーに口をつける。
強めの苦味が口の中でふんわりと滲んで、これはこれで嫌いじゃない。

「ほんまや、飲めとる」
「3年も経てば飲めますよ」

「敬語はいつやめるん?」
「唐突ですね。やめませんよ」

「変な感じやな」
「そうですか?これで慣れてしまってて」

「だってもううちら恋人やろ?」
「ああ、はあ、そう、ですね」

「何照れとんねん、やっぱ子供やなぁ」
「いやあの、今のは突然だったので」

3年前と違って会話はスラスラとできた。

3年も会っていなかったからか、話したい事が山のようにあった。

暫くして、変わらないあの言葉。

「ほな、寝よか」

俺の腕に小さな頭を乗せて縮こまるお姉さんは可愛らしい。
優しく撫でると香るあの匂いに急速に3年前を思い出す。

「ずっと会いたかってんで」
「ごめんなさい」

「もうどこにも行かんよな?」
「卒業式には帰らなくちゃならないのと、家を借りてるのでそれを解約するのとありますね」

「うん、ここに居たらええよ」
「家賃は払いますから」

「いらんよ、借家ちゃうし」
「結婚資金にでもしておいてください」

「お、おう」

こうして思えばお姉さんは照れ屋だったのだろう。
3年前の俺はそんな事全く分からなかったけど。

その内にお姉さんはスヤスヤと寝息を立て始める。
俺の腕の中で安らかに眠る。

こんな日々がこれから一生続くのだろうと考えたら、俺は何とも言えない喜びに包まれて、幸福の中で眠りについた。

それは春が訪れる。

桜が咲く前の事。

ってなわけで悪いがエロなしで終わり。

読んでくれてありがとう、お前らお疲れな。

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