この手に残る温もりは…【体験談】
秋口の山は思ったより厳しいものだった。
僕は南アルプス連峰の黒姫岳を一人登っていた。
2週間前、僕は死のうと思っていた。
外資系金融会社でトーレーダーをしている僕は、将来を嘱望されていた。
読みが当たり、打つ手がすべて会社に利益を与えていた。
この会社は自分でもっているとさえ思っていた・・・。
ところが思いもかけない落とし穴が待っていた。
リーマンショックと世間では呼んでいた。
僕は会社にとんでもない不利益をもたらしてしまった。
有頂天になり、天狗となっていた僕は、一夜にしてピエロとなった。
頭を抱え、後悔しても、もう遅かった。
このまま消えてしまおう。
そんな事を考えている毎日だった。
部屋で悶々と過ごしているある日、学生時代の写真を手に取った。
ワンダーフォーゲル部に所属していた僕は、りりしく輝く前途が約束されたような顔で写真に収まっていた。
もうもう一度あのころの希望に満ちた僕に戻りたかった。
もう一回山に戻って初心に帰ろう・・・僕はそんな風に考えたのだった。
もう何年も山には登ってない。
でもきっとできると信じて、僕は山に向かった。
秋の山は空気が透明だった。
久しぶりの山歩きは思ったよりきついものだった。
提出した登山計画では、一泊のもので、軽装と言えるものだったが、しばらく山から離れていた僕には十分な荷物だった。
でも終わりかけの紅葉と新緑が混じった山々が僕の心を洗いながしてくれるようだった。
「もうすぐ山頂のはずだ・・頑張ろう」
額の汗も拭うのも忘れて僕は歩いた。
しばらくあるいたのだが、まだ山頂の山小屋は見えてこなかった。
2回ほど登った山だ。
ルートは間違いないはずだった。
しかし、小一時間歩いても一向に山小屋は見えて来なかった。
「おかしいな・・間違えたのか・・・」
僕はそんなはずは無いという思いと不安がいりまじった気持ちになっていた。
空が暗くなり空気が冷えてきていた。
そのうち、小さな霙と雨粒が落ちてきた。
山の天気は変わりやすいのだが、それにしても早すぎる霙だった。
「まずいぞ。完全に道に迷ったな・・・」
僕は判断に迫られていた。
このまま山頂へ向かっても、ルートはずれるばかりだ。
僕は尾根伝いに下山する決心をした。
状況が悪くなる前に、解る地点まで戻らなければ・・・。
焦る気持ちが勝っていた。
その時だった。
足元の朽ちた樹木に足をとられ、僕は斜面を転げ落ちていった。
回転していく身体とうらはらに、土の匂いや枯れた木々の匂いをしっかりと感じていた。
「このまま死んでしまうのだろうか・・・」
そんなことを考えながら、僕は谷へと落ちていった。
転げ落ちた僕の身体がやっと止まったころ、僕の意識はゆっくりと消えていった・・・。
冷たい雨粒が顔を叩くのと同時に、柔らかな声とも言えない音で僕は目をさました。
「大丈夫?しっかり気を持って。怪我はたいしたことないよ。しっかり」
僕はぼんやりとした頭で状況を確認した。
確かルートを間違って道に迷い、滑落したはずだ・・・。
僕の傍らには、赤いヤッケに透明のかっぱらしきものをはおった人が、僕の身体を支えていた。
すこし古めかしいヤッケだったが、「山人」の着るものだとわかった。
「これ飲んで。ゆっくりとだよ」
僕の鼻先に差し出されたコップからは、湯気に混じってウイスキーの香りがした。
僕はゆっくりと喉に通した。
浸み渡るとはこういう感じなのだろう。
そのコップ一杯の液体で、僕は生き帰るようだった。
「ありがとう・・・助かったのかな。俺は・・・」
「うん。大丈夫。すぐそこにうちの山小屋があるの。歩ける?」
「たぶん大丈夫。足は捻挫してるみたいだけど。歩けるよ」
「良かった」
僕は貸してくれた肩に腕を回した時に、その救助人が女性だと気が付いた。
古めかしい暖炉の前で僕は座っていた。
「ごめんね。それお兄ちゃんの服なの。ちょっと小さいかな^^」
「いやそんなことないよ。ありがとう。ほんとに助かったよ」
部屋は暖かく、ハンガーに掛った僕の服はきっとすぐ乾くだろう。
「うわぁ吹雪いてきた。初雪だ・・・今年はちょっと早いみたい・・・」
「本当だ。判断ミスだな・・天気予報はちゃんとチェックしたのに・・」
外は嵐の様な風と雪が、横殴り。
「君は一人でここにいるの?ご家族は?」
「そんなぁ^^兄は山岳会で救助隊してるの。父と母は小さい頃死んじゃった」
「そっかぁ・・・お兄さんと二人暮らしなんだね。妹さんも救助隊だね・・助かったよ」
○7歳になるその「妹」は真由子と名乗った。
長い髪を後ろでポニーテールに束ねた真由子は、すこし浅黒い顔をしていて、生粋の「山人」だろうと想像できた。
「この雪だったら、お兄ちゃん帰って来れないなぁ・・・」
「そうだね。ところでここってどの地点なのかな?」
「山頂の南側の尾根だよ。たぶん反対側に迷って来たんじゃないかな」
「そうか・・・ダメだなぁ・・都会で暮らしてると勘も鈍るよ^^」
僕は、さっき薄れていく意識の中ではっきりと「死」を感じていた。
思い残すことは少なからずあったのだが、死ぬのならここでいいとさえ思ったはずだ。
だが今になって初めて手が震えるのを感じた。
助かったと認識して初めて「恐怖」が頭を横切った。
僕は軽い低体温症になっていたのだろう。
気が緩んだ今となって「恐怖」とあいまって、身体が震えだし寒さを感じた。
暖かい毛布にくるまってベッドで横たわる僕は、真由子の素肌に抱き締められていた。
部屋の外はもの凄い風の音だったが、暖炉の薄暗い明りに照らされた部屋の中は静寂にみちていた。
暖炉の明かりに照らされた真由子の肌は、この世のものとは思えないほど美しかった。
真由子の形のいい乳房に顔を埋めていた僕は、心の底から「温かさ」を感じていた。
女性の身体はこんなに温かいものだったのだろうか・・・僕は夢中で真由子の乳房を吸った。
手を伸ばして真由子の柔らかい茂みに触れると彼女は少し声をあげた。
真由子の性器は潤っていて僕の指は真由子の愛液で濡れた。
愛液すらも温かく、僕の指を温めてくれているようだった。
真由子の腰は細い訳ではなかったが、しっかりとしたお尻とバランスよく張っていた。
僕は腰からお尻にかけてゆっくりと舌を這わせた。
「あ・・・あ・・・くすぐったい・・」
言葉と裏腹に真由子の声は色っぽく思えた。
僕は構わず、性器に舌を這わせる。
真由子の両足を開かせ、性器を思い切り舐め上げた。
少し汗混じりの真由子の性器の匂いが優しく鼻をくすぐった。
真由子の濃い愛液が口の周りにからみついても、僕は夢中で真由子の性器を貪った。
それから僕は真由子の中にゆっくりとわけ入っていった。
真由子の柔らかくて温かい性器は、しっかりと根元まで飲み込んでいた。
「ああ・・大きい・・・」
「あったかいよ・・真由子・・・」
うつ伏せになった真由子のしっかりとした腰を持ち上げて足を開かせた。
僕はそのまま真由子を後ろから貫いた。
激しい腰の動きに合わせたように、真由子は声を上げ続けた。
恐いくらい固くなった僕を、根元まで押し込んだ瞬間、僕は果てた。
真由子は大きく声をあげた。
頭が痺れるような快感とともに、僕は真由子の背中に崩れ落ちていった。
それから何度も僕と真由子は愛し合った。
この不思議な部屋の雰囲気がそうしたのだろう。
僕と真由子は何年も付き合った恋人のようだった。
腕枕で窓の外を眺めている真由子の横顔は、暖炉の明かりに照らされて美しかった。
僕はなぜだか、真由子をずっと昔から知っているような気がした。
僕は真由子に自分の生い立ちから、学生時代の事、会社での失敗、死のうと思った事・・・。
まるで心を許した恋人に離すかのように話した。
真由子は理解できる年齢ではないはずなのに、黙って聞き入っていた。
それから僕を優しく抱き締めてこう言った。
「生きているならやり直せるよきっと。私よくわかんないけど・・・。そう思う。こんなトコに暮らしてると、小さい事なんてどうでもいいって思えるの^^」
僕も本当にそう思った。
ずっと歳下の真由子の方が、僕よりずっと大人だと思えた。
「私ね、この山が好きなの。ずっとここにいたいって思うくらい^^」
「そうなんだ。でも都会もいいよ。刺激的だし・・・」
真由子はクスっとほほ笑んで言った。
「私ね、、、ここでやらなきゃいけないことがあるんだぁ・・」
「なんだろう・・僕は街で真由子とデートしなきゃっておもうんだけどな^^」
「それもいいかもね^^」
こっちを向いた真由子の笑顔がたまらなく可愛く思えて、ぼくはまた真由子に覆いかぶさった。
「またするの?^^すごい・・完全に生き返ったね^^」
小さな山小屋から差し込む朝日で僕は目が覚めた。
真由子は小さなテーブルの上にコーヒーと焼いたパンを運んでいた。
僕はすこし恥ずかしかった。
真由子も少し恥ずかしそうな顔でほほ笑んでいた。
「今日なら下山できそうだよ。吹雪も風もやんだみたい」
「そうだね。お兄さんに何も言わずに出ていっちゃっていいのかな?」
「お兄ちゃんに知れたら、殺されちゃうよ^^」
「ああ。ホントだな^^・・・」
少し僕は焦った。
でも命を救ってくれたこの家族に、日を変えてでもお礼を言わなければならないと思った。
僕は真由子と雪が積もった山道を下って行った。
「もうここまで来たら迷わないよ。あとここを下れば麓まで着けるから」
「うん。ありがとう。真由子ちゃん、また逢いたいな。また登って来てもいいけど、街まで来てくれたならご飯でもごちそうしたいし」
「うん。もちろん。私も逢いたいな。麓の入山案内所に無線があるから呼んで^^2時間待ってくれたら降りていけるから^^」
「じゃぁ約束だ^^」
「はい^^お仕事頑張って。きっとうまく行くよ^^」
「おう!!完全に元気出たよ。真由子のおかげだ」
下って行く途中で振り返ると真由子が手を振っているのが見えた。
僕も何度も手を振った。
しばらく歩いていくと、したから数人の登山客らしい人影が見えてきた。
慌てたように何人かが手を振って急いで登って来た。
「東京の青山さんですか?」
「そうですが・・・」
「よかった・・無事ですか?お怪我は?」
「足をちょっと捻挫してますが、なんとか歩けます・・・」
「地元の山岳会の者です。よくご無事で・・」
「道に迷ってしまって・・・一応登山計画通りには下山できました」
「?・・・」
僕は助けを断って自力で歩いて下山した。
その道すがら僕はキツネに摘まれたような話を山岳会の人から聞いた。
僕は4日間も行方不明だったらしい。
季節外れの猛吹雪と風で、捜索隊も今日になってやっと出れたという事だった。
僕はふもとの救難所で、訳のわからぬまま一部始終を話した。
南の尾根で滑落して、尾根の中腹の山小屋の少女に助けられた事、道案内をしてもらい、ルートに戻ってたどり着けたこと・・・。
山岳会の人達は、怪訝そうな顔つきで僕を眺めてこう言った。
「私達はここの人間ですが・・・南の尾根には山小屋はありません・・・」
僕は何が何だかわからなくなった。
真由子といっしょだった一夜は紛れもない事実だし、真由子の温もりもこの手に残っていた。
一人になった救難所でぼんやりと自分の手を見つめている僕に、一人の老いた山岳会員がそっと話し掛けてきた。
「あなたは会ったんじゃね・・・」
「え?・・・」
「暖炉がある小さな山小屋にいたのでしょう?」
「そうです。小さな暖炉と窓が二ある山小屋です。真由子さんという方に助けられました。服も乾かしてもらって」
「・・・そうですか・・・あなたはきっとお兄さんににてらっしゃるのでしょう・・」
「あ。そうです。お兄さんがいると言ってました。山岳救助隊にいらっしゃると」
その老人は続けた。
「40年ほど前、ここの若いもんは知らないが、南の尾根に山小屋があってな」
「・・・はい・・」
「そこに、兄妹が住んでいたんだ。妹さんは16,7だったかな。両親もここの人間でな。早くに二人とも亡くなって二人で住んでた・・」
「ある冬の吹雪の日、遭難した入山者を救助に行った兄も遭難した。わしの幼な馴染みだったが・・みんなが止めるのを遮って山に入った。それで遭難した。あいつはいまだに帰らん・・」
「・・・え?・・」
「妹さんは悲しんでなぁ・・お兄さんが帰るのを待つと言って一人、山小屋に残った・・。
それからずっと山を探して回っておった。一人でな・・・。お兄さんを見つけると言ってな。
たった一人の肉親じゃ。諦められんかっただろう・・。
それから3度目の冬だったかな。南の尾根で大きな雪崩があってな・・。山小屋も流されたんだよ。
今ほどルートが整って無い時分だ。見つけるのに大変でなぁ・・・」
「それで?・・・どうなったんですか・・」
「見つかったよ。綺麗な死に顔でなぁ・・・」
「・・・あ・・・あ・・・」
僕は声にならないような声をあげていた。
「きっと真由子さんじゃ・・・あんたを助けたかったんじゃろう・・・。お兄さんを助けられなかったからのう・・心残りじゃったろう」
「・・・僕は・・・僕は・・」
「いいんじゃよ。誰にもわかりっこない。
だがな、わしは解るよ。この40年で誰もこの山で死んではいない。
この山で死にかけて、あの子に助けられたんはわしとあんたの二人だけじゃ・・・」
老人は優しく笑っていた。
2ヶ月後、僕は老人から聞いた墓地に行き、真由子の墓前に立たずんでいた。
瀬能忠瀬能真由子墓石にはこう刻まれていた。
僕はそっと手を合わせて二人に声を掛けた。
誰も知らなくてもいい。
毎年ここに来て、僕は真由子に語りかけようと思った。
真由子に助けられた大事な命だから、精いっぱい頑張って生きよう。
人知れず山に入る人々を守ってくれている真由子に感謝をしようと。
「生きていればやり直せるよ、きっと。頑張って^^」
冬の木枯らしに乗ってそんな声が聞こえたような気がして僕はふっと振り返った。
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僕は南アルプス連峰の黒姫岳を一人登っていた。
2週間前、僕は死のうと思っていた。
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この会社は自分でもっているとさえ思っていた・・・。
ところが思いもかけない落とし穴が待っていた。
リーマンショックと世間では呼んでいた。
僕は会社にとんでもない不利益をもたらしてしまった。
有頂天になり、天狗となっていた僕は、一夜にしてピエロとなった。
頭を抱え、後悔しても、もう遅かった。
このまま消えてしまおう。
そんな事を考えている毎日だった。
部屋で悶々と過ごしているある日、学生時代の写真を手に取った。
ワンダーフォーゲル部に所属していた僕は、りりしく輝く前途が約束されたような顔で写真に収まっていた。
もうもう一度あのころの希望に満ちた僕に戻りたかった。
もう一回山に戻って初心に帰ろう・・・僕はそんな風に考えたのだった。
もう何年も山には登ってない。
でもきっとできると信じて、僕は山に向かった。
秋の山は空気が透明だった。
久しぶりの山歩きは思ったよりきついものだった。
提出した登山計画では、一泊のもので、軽装と言えるものだったが、しばらく山から離れていた僕には十分な荷物だった。
でも終わりかけの紅葉と新緑が混じった山々が僕の心を洗いながしてくれるようだった。
「もうすぐ山頂のはずだ・・頑張ろう」
額の汗も拭うのも忘れて僕は歩いた。
しばらくあるいたのだが、まだ山頂の山小屋は見えてこなかった。
2回ほど登った山だ。
ルートは間違いないはずだった。
しかし、小一時間歩いても一向に山小屋は見えて来なかった。
「おかしいな・・間違えたのか・・・」
僕はそんなはずは無いという思いと不安がいりまじった気持ちになっていた。
空が暗くなり空気が冷えてきていた。
そのうち、小さな霙と雨粒が落ちてきた。
山の天気は変わりやすいのだが、それにしても早すぎる霙だった。
「まずいぞ。完全に道に迷ったな・・・」
僕は判断に迫られていた。
このまま山頂へ向かっても、ルートはずれるばかりだ。
僕は尾根伝いに下山する決心をした。
状況が悪くなる前に、解る地点まで戻らなければ・・・。
焦る気持ちが勝っていた。
その時だった。
足元の朽ちた樹木に足をとられ、僕は斜面を転げ落ちていった。
回転していく身体とうらはらに、土の匂いや枯れた木々の匂いをしっかりと感じていた。
「このまま死んでしまうのだろうか・・・」
そんなことを考えながら、僕は谷へと落ちていった。
転げ落ちた僕の身体がやっと止まったころ、僕の意識はゆっくりと消えていった・・・。
冷たい雨粒が顔を叩くのと同時に、柔らかな声とも言えない音で僕は目をさました。
「大丈夫?しっかり気を持って。怪我はたいしたことないよ。しっかり」
僕はぼんやりとした頭で状況を確認した。
確かルートを間違って道に迷い、滑落したはずだ・・・。
僕の傍らには、赤いヤッケに透明のかっぱらしきものをはおった人が、僕の身体を支えていた。
すこし古めかしいヤッケだったが、「山人」の着るものだとわかった。
「これ飲んで。ゆっくりとだよ」
僕の鼻先に差し出されたコップからは、湯気に混じってウイスキーの香りがした。
僕はゆっくりと喉に通した。
浸み渡るとはこういう感じなのだろう。
そのコップ一杯の液体で、僕は生き帰るようだった。
「ありがとう・・・助かったのかな。俺は・・・」
「うん。大丈夫。すぐそこにうちの山小屋があるの。歩ける?」
「たぶん大丈夫。足は捻挫してるみたいだけど。歩けるよ」
「良かった」
僕は貸してくれた肩に腕を回した時に、その救助人が女性だと気が付いた。
古めかしい暖炉の前で僕は座っていた。
「ごめんね。それお兄ちゃんの服なの。ちょっと小さいかな^^」
「いやそんなことないよ。ありがとう。ほんとに助かったよ」
部屋は暖かく、ハンガーに掛った僕の服はきっとすぐ乾くだろう。
「うわぁ吹雪いてきた。初雪だ・・・今年はちょっと早いみたい・・・」
「本当だ。判断ミスだな・・天気予報はちゃんとチェックしたのに・・」
外は嵐の様な風と雪が、横殴り。
「君は一人でここにいるの?ご家族は?」
「そんなぁ^^兄は山岳会で救助隊してるの。父と母は小さい頃死んじゃった」
「そっかぁ・・・お兄さんと二人暮らしなんだね。妹さんも救助隊だね・・助かったよ」
○7歳になるその「妹」は真由子と名乗った。
長い髪を後ろでポニーテールに束ねた真由子は、すこし浅黒い顔をしていて、生粋の「山人」だろうと想像できた。
「この雪だったら、お兄ちゃん帰って来れないなぁ・・・」
「そうだね。ところでここってどの地点なのかな?」
「山頂の南側の尾根だよ。たぶん反対側に迷って来たんじゃないかな」
「そうか・・・ダメだなぁ・・都会で暮らしてると勘も鈍るよ^^」
僕は、さっき薄れていく意識の中ではっきりと「死」を感じていた。
思い残すことは少なからずあったのだが、死ぬのならここでいいとさえ思ったはずだ。
だが今になって初めて手が震えるのを感じた。
助かったと認識して初めて「恐怖」が頭を横切った。
僕は軽い低体温症になっていたのだろう。
気が緩んだ今となって「恐怖」とあいまって、身体が震えだし寒さを感じた。
暖かい毛布にくるまってベッドで横たわる僕は、真由子の素肌に抱き締められていた。
部屋の外はもの凄い風の音だったが、暖炉の薄暗い明りに照らされた部屋の中は静寂にみちていた。
暖炉の明かりに照らされた真由子の肌は、この世のものとは思えないほど美しかった。
真由子の形のいい乳房に顔を埋めていた僕は、心の底から「温かさ」を感じていた。
女性の身体はこんなに温かいものだったのだろうか・・・僕は夢中で真由子の乳房を吸った。
手を伸ばして真由子の柔らかい茂みに触れると彼女は少し声をあげた。
真由子の性器は潤っていて僕の指は真由子の愛液で濡れた。
愛液すらも温かく、僕の指を温めてくれているようだった。
真由子の腰は細い訳ではなかったが、しっかりとしたお尻とバランスよく張っていた。
僕は腰からお尻にかけてゆっくりと舌を這わせた。
「あ・・・あ・・・くすぐったい・・」
言葉と裏腹に真由子の声は色っぽく思えた。
僕は構わず、性器に舌を這わせる。
真由子の両足を開かせ、性器を思い切り舐め上げた。
少し汗混じりの真由子の性器の匂いが優しく鼻をくすぐった。
真由子の濃い愛液が口の周りにからみついても、僕は夢中で真由子の性器を貪った。
それから僕は真由子の中にゆっくりとわけ入っていった。
真由子の柔らかくて温かい性器は、しっかりと根元まで飲み込んでいた。
「ああ・・大きい・・・」
「あったかいよ・・真由子・・・」
うつ伏せになった真由子のしっかりとした腰を持ち上げて足を開かせた。
僕はそのまま真由子を後ろから貫いた。
激しい腰の動きに合わせたように、真由子は声を上げ続けた。
恐いくらい固くなった僕を、根元まで押し込んだ瞬間、僕は果てた。
真由子は大きく声をあげた。
頭が痺れるような快感とともに、僕は真由子の背中に崩れ落ちていった。
それから何度も僕と真由子は愛し合った。
この不思議な部屋の雰囲気がそうしたのだろう。
僕と真由子は何年も付き合った恋人のようだった。
腕枕で窓の外を眺めている真由子の横顔は、暖炉の明かりに照らされて美しかった。
僕はなぜだか、真由子をずっと昔から知っているような気がした。
僕は真由子に自分の生い立ちから、学生時代の事、会社での失敗、死のうと思った事・・・。
まるで心を許した恋人に離すかのように話した。
真由子は理解できる年齢ではないはずなのに、黙って聞き入っていた。
それから僕を優しく抱き締めてこう言った。
「生きているならやり直せるよきっと。私よくわかんないけど・・・。そう思う。こんなトコに暮らしてると、小さい事なんてどうでもいいって思えるの^^」
僕も本当にそう思った。
ずっと歳下の真由子の方が、僕よりずっと大人だと思えた。
「私ね、この山が好きなの。ずっとここにいたいって思うくらい^^」
「そうなんだ。でも都会もいいよ。刺激的だし・・・」
真由子はクスっとほほ笑んで言った。
「私ね、、、ここでやらなきゃいけないことがあるんだぁ・・」
「なんだろう・・僕は街で真由子とデートしなきゃっておもうんだけどな^^」
「それもいいかもね^^」
こっちを向いた真由子の笑顔がたまらなく可愛く思えて、ぼくはまた真由子に覆いかぶさった。
「またするの?^^すごい・・完全に生き返ったね^^」
小さな山小屋から差し込む朝日で僕は目が覚めた。
真由子は小さなテーブルの上にコーヒーと焼いたパンを運んでいた。
僕はすこし恥ずかしかった。
真由子も少し恥ずかしそうな顔でほほ笑んでいた。
「今日なら下山できそうだよ。吹雪も風もやんだみたい」
「そうだね。お兄さんに何も言わずに出ていっちゃっていいのかな?」
「お兄ちゃんに知れたら、殺されちゃうよ^^」
「ああ。ホントだな^^・・・」
少し僕は焦った。
でも命を救ってくれたこの家族に、日を変えてでもお礼を言わなければならないと思った。
僕は真由子と雪が積もった山道を下って行った。
「もうここまで来たら迷わないよ。あとここを下れば麓まで着けるから」
「うん。ありがとう。真由子ちゃん、また逢いたいな。また登って来てもいいけど、街まで来てくれたならご飯でもごちそうしたいし」
「うん。もちろん。私も逢いたいな。麓の入山案内所に無線があるから呼んで^^2時間待ってくれたら降りていけるから^^」
「じゃぁ約束だ^^」
「はい^^お仕事頑張って。きっとうまく行くよ^^」
「おう!!完全に元気出たよ。真由子のおかげだ」
下って行く途中で振り返ると真由子が手を振っているのが見えた。
僕も何度も手を振った。
しばらく歩いていくと、したから数人の登山客らしい人影が見えてきた。
慌てたように何人かが手を振って急いで登って来た。
「東京の青山さんですか?」
「そうですが・・・」
「よかった・・無事ですか?お怪我は?」
「足をちょっと捻挫してますが、なんとか歩けます・・・」
「地元の山岳会の者です。よくご無事で・・」
「道に迷ってしまって・・・一応登山計画通りには下山できました」
「?・・・」
僕は助けを断って自力で歩いて下山した。
その道すがら僕はキツネに摘まれたような話を山岳会の人から聞いた。
僕は4日間も行方不明だったらしい。
季節外れの猛吹雪と風で、捜索隊も今日になってやっと出れたという事だった。
僕はふもとの救難所で、訳のわからぬまま一部始終を話した。
南の尾根で滑落して、尾根の中腹の山小屋の少女に助けられた事、道案内をしてもらい、ルートに戻ってたどり着けたこと・・・。
山岳会の人達は、怪訝そうな顔つきで僕を眺めてこう言った。
「私達はここの人間ですが・・・南の尾根には山小屋はありません・・・」
僕は何が何だかわからなくなった。
真由子といっしょだった一夜は紛れもない事実だし、真由子の温もりもこの手に残っていた。
一人になった救難所でぼんやりと自分の手を見つめている僕に、一人の老いた山岳会員がそっと話し掛けてきた。
「あなたは会ったんじゃね・・・」
「え?・・・」
「暖炉がある小さな山小屋にいたのでしょう?」
「そうです。小さな暖炉と窓が二ある山小屋です。真由子さんという方に助けられました。服も乾かしてもらって」
「・・・そうですか・・・あなたはきっとお兄さんににてらっしゃるのでしょう・・」
「あ。そうです。お兄さんがいると言ってました。山岳救助隊にいらっしゃると」
その老人は続けた。
「40年ほど前、ここの若いもんは知らないが、南の尾根に山小屋があってな」
「・・・はい・・」
「そこに、兄妹が住んでいたんだ。妹さんは16,7だったかな。両親もここの人間でな。早くに二人とも亡くなって二人で住んでた・・」
「ある冬の吹雪の日、遭難した入山者を救助に行った兄も遭難した。わしの幼な馴染みだったが・・みんなが止めるのを遮って山に入った。それで遭難した。あいつはいまだに帰らん・・」
「・・・え?・・」
「妹さんは悲しんでなぁ・・お兄さんが帰るのを待つと言って一人、山小屋に残った・・。
それからずっと山を探して回っておった。一人でな・・・。お兄さんを見つけると言ってな。
たった一人の肉親じゃ。諦められんかっただろう・・。
それから3度目の冬だったかな。南の尾根で大きな雪崩があってな・・。山小屋も流されたんだよ。
今ほどルートが整って無い時分だ。見つけるのに大変でなぁ・・・」
「それで?・・・どうなったんですか・・」
「見つかったよ。綺麗な死に顔でなぁ・・・」
「・・・あ・・・あ・・・」
僕は声にならないような声をあげていた。
「きっと真由子さんじゃ・・・あんたを助けたかったんじゃろう・・・。お兄さんを助けられなかったからのう・・心残りじゃったろう」
「・・・僕は・・・僕は・・」
「いいんじゃよ。誰にもわかりっこない。
だがな、わしは解るよ。この40年で誰もこの山で死んではいない。
この山で死にかけて、あの子に助けられたんはわしとあんたの二人だけじゃ・・・」
老人は優しく笑っていた。
2ヶ月後、僕は老人から聞いた墓地に行き、真由子の墓前に立たずんでいた。
瀬能忠瀬能真由子墓石にはこう刻まれていた。
僕はそっと手を合わせて二人に声を掛けた。
誰も知らなくてもいい。
毎年ここに来て、僕は真由子に語りかけようと思った。
真由子に助けられた大事な命だから、精いっぱい頑張って生きよう。
人知れず山に入る人々を守ってくれている真由子に感謝をしようと。
「生きていればやり直せるよ、きっと。頑張って^^」
冬の木枯らしに乗ってそんな声が聞こえたような気がして僕はふっと振り返った。
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