鬼姫 5
「鬼姫は永久にいなくなったらいい」
これは当時の職場の同僚の言葉です。
俺の勤めていた病院では、その日の夜の当直医が職員掲示板に張り出される仕組みになっていたのですが、この掲示板で鬼姫様の名前を目にしたら最後、
その日一日は極度の緊張に支配された憂鬱なものとなるのでした。
少しでもミスがあったら最後。速攻で鬼姫様の雷が落ちるからです。
ですから、そんな鬼姫様がいなくなったらいい、とは、当時彼女と職場を共にしていた人間の嘘偽りない本音だったっと思います。
しかし、その鬼姫様も今はどうかというと……。
興奮のためでしょうか?
「はあ……はあ……」
俺を抱きしめたまま丹念になおも俺の耳に舌を這わせ続ける鬼姫様が熱く湿らせた吐息をこぼすたびに、
「ゾゾゾ……ザザザ……」
こんなノイズが俺の耳の中で響き渡りました。
鬼姫様の舌先はぬるりと熱く濡れていて、まるで俺の事をゆっくりゆっくりとろかしていくようにして愛撫を続けます。
耳の輪郭を舐めまわしながら気まぐれに唇ではむと甘く咥えてきたり、そうかと思えば、ひだの中をまるで舌先で掬うようにして万遍なく丁寧に舐めまわした後は、器用に舌先を尖らせてそのまま狭い耳の穴の中に挿し入れ、うねうねと少し淫らにうごめかせたり……。
そうしながら、気まぐれにふーっと唇を尖らせて優しく細く長く息を吹き込んできたり、ちゅっちゅっと濡れた音を弾かせて耳のあちこちに口づけたりしてきたので、俺はくすぐったさと何とも言えない高ぶりに身体がゾクゾクと震えるのを我慢することができませんでした。
彼女の細く華奢な身体を抱きしめる力がいつしかこわばり、自分の吐息も鬼姫様と同じように乱れたものになっていっていました。
二人仲良く乱れた熱い吐息を交らせ合う中、鬼姫様は俺の事をぎゅうと抱きしめたまま、無限といっていいほどたっぷりの時間をかけて、なおも俺の耳に舌を這わせ続けていました。
「はあ……ねえ……おちんちん……舐めても、いい?」
息を乱れさせたままの鬼姫様が俺を見つめる左右の瞳をとろんと甘く潤ませて小さく首を傾げたのは、俺の両耳がドロドロになるほどさんざん舐めまわしたあとのことでした。
もうお湯からあがってだいぶ時間が経っていたのに、その両頬は真っ赤に染まっていて、また、頬と同じように赤く染まった彼女の細くやわらかな身体は燃えるように熱く、そしていつしか噴き出してきたたっぷりの汗のためにまるでオイルを塗り広げたように濡れた光を放っていました。
と、俺が返事をしようとする前に、彼女は不意に俺の唇を奪いました。
ぷにゅりとやわらかな鬼姫様の唇が重なるや否や、ぬるりと熱く濡れた舌が俺の中に入り込んできて、うっとりと瞼を伏せ小刻みに睫毛を震わせた彼女は、
「ん……ん……」
と甘い声をこぼしながら、俺を思い切り抱きしめたまま、二人のぴったり重なり合った唇の中で、ねっとりと大胆にそしてれろれろと細かく器用に舌をうごめかせていました。
突然の事にびっくりしながらも俺もキスは嫌いじゃなかったのでこれに応じてあげると、
彼女は「くぅん」と嬉しそうに声を漏らして俺の頭を掻き抱くとなおも舌を絡ませてきました。
鬼姫様の唇の中はまるで生温かなたっぷりのローションか何かを含んだように濡れていました。
彼女が唇を、舌を動かすたびに「ちゅぽちゅぽくちゅくちゅぷちゅぷちゅ」と、とろみのある淫らな水音がこぼれ、そしてどんどん溢れてくる彼女の唾液が二人の唇やあごを濡らしていきました。
しばらくお互い抱き合ったままこうして舌を絡ませ合った後、どちらからともなく「ちゅぽん」と音を立ててそっと唇を離すと、頬を真っ赤に染めた鬼姫様はそれまで伏せていた瞼をゆっくり開き、とろりとした視線をこちらにむけると、ぺろりと悪戯っぽく赤い舌を覗かせて、
「いっぱいいっぱい、ちゅうしちゃった」
と恥ずかしそうにそして嬉しそうに微笑み、再びそのやわらかな唇を俺の唇に重ねてきました。
この時のキスは一瞬で、すぐに彼女の唇が離れたあと、
「フェラしたいんじゃなかったの?」
と「おちんちん舐めたい」という彼女の要求と、濃厚にキスをするという実際の行動が異なることを俺が苦笑いしながら指摘すると、
「どっちもしたいの!」
と声を上げると鬼姫様はまるで子供のようにはしゃいだ様子を見せました。
「おちんちんも舐めたいし、ちゅうもしたいの! 悪い?!」
わざと大げさに頬を膨らまして拗ねてみせながら、けれどどこか嬉しそうな彼女に、
「いえいえ、全然悪くありません」
とこちらは苦笑いを浮かべることしかできませんでした。
おそらくは鬼姫様自身興奮していて、自分でも何をしているのかよくわからなかったのが真相なのでしょう。
と、ふっとはしゃぐのをやめた彼女が再びとろんとした視線をこちらにむけると、左手の人差し指を寂しげにその濡れた唇に添え、そっと小首を傾げて、甘くおねだりをするようにつぶやきました。
「……じゃあ、おちんちん、おしゃぶりしても……いい?」
病院では青い手術着の上に白衣を身につけ、さらに大きなマスクを着けてその素顔を見せず、しかも周囲に男言葉で厳しく接するのが当たり前の鬼姫様ですが、濡れた光を放つ黒く長い髪を頬に幾筋かほつらせながら、赤く染まったミルク色の華奢な身体にだらりと垂らしてペタリと座り込んだまま、おねだりをする子供のようにこちらを一途に見つめるその仕草はあまりにも愛くるしくて、見ているこちらは胸がいっぱいになってしまいました。
ごくりと唾を呑み込んで俺は言いました。
「その前に、おっぱい舐めさせてよ」
「え?」
こちらの言葉が予想外だったのか、鬼姫様は疑問の声を上げました。
そんな彼女に俺は静かに続けました。
「さっきは好きなようにさせてあげたでしょ? じゃあ今度はこっちのお願いも聞いてよ」
別にわがままを言っているつもりはありませんでした。
最初、初めて交わった時は完全に彼女のペースで最後まで事を終えました。
キスをして、彼女の言われるままフェラチオをさせてあげて、そしてそのまま結ばれて最後を迎えたのです。
ですから、今度はこちらの好きなようにさせて欲しい、愛しすぎる鬼姫様のすべてを自分の好きなようにたくさん愛したかったのです。
「えー……」
俺の言葉に彼女は少し頬を膨らまして、拗ねた様子を見せました。そして、
「……いじわる……」
上目遣いでこちらを睨みつけるようにしながら彼女は小さく呟いたのですが、その姿が自分の目にはあまりにも可愛く映りました。もう言葉に出来ないほど。
ですから、気がつくと、今度はこちらの方から思わず彼女をぎゅうと抱きしめその唇を奪っていました。
「……んぐっ!!」
突然の事に鬼姫様は一瞬戸惑った様子を見せ、身体をこわばらせましたが、
すぐにふっと緊張を緩めると優しく俺の背中に手をまわしてそのまま抱きしめ、
さっきと同じように唇をゆるりと開いて俺の舌を招き入れると、自分の熱く濡れた舌を絡ませてきて、
「ん、ん……んん……」と甘い声音をこぼしながら、ねっとりと俺と交わってくれました。
しばらくして、どちらからともなく唇を離すと、鬼姫様は俺をじっと見つめながら、ニッと白い歯を見せて実にさわやかな笑顔を作ると言ってくれました。
「好きにして……いっぱいいっぱい愛して……」
そしてそのまま彼女は俺の腕の中で真っ白い喉元を大きく露わにしていきながら、くーっと全身を大きく仰け反らせていきました。
それはまるで鬼姫様が自分のすべてを俺に捧げようとするかのようでした。
神々しいほどに美しくて眩しく、見ている両目がくらみそうでした。
そして、大きく仰け反りきった彼女がそのまま俺の両腕に全体重を預けてきたので、俺はこれを必死に支えながら、いつしかなぜか涙が溢れてきて止まりませんでした。
どうしてこの人はこんなに愛しいのだろう、と。
「あ……んん……はあっ……ああっ……! あ……ん……」
日が沈んできたために外が暗くなり始めていたにもかかわらず、電気をつけていないために一際暗い別荘の中では、ただ鬼姫様の甘く濡れた声が静かに響いていました。
露天風呂近くのフローリングの床の上で大きく仰向けに横たわった鬼姫様は、興奮して鼻息を荒くしながら彼女に覆いかぶさっていた俺の好きなようにされていました。
静かに両目を伏せたまま俺に身を預けた鬼姫様を床に横たえた後、俺は彼女に静かにそのまま覆いかぶさると、まず濡れた髪を何度も丁寧にかきあげて、露わとなったその額にそっと口づけました。
優しく優しく静かに口づけて、そのまましばらくずっと唇を離しませんでした。
自分で言うのもなんですが、この時は興奮とか厭らしい気持ちとかは一切なくて、ただただ彼女への愛しい想いで胸がいっぱいでした。
さっきから溢れていた涙は止まりませんでした。むしろ一層溢れてきました。
何でこんなことをしたのか自分でもよくわかりません。
ただ、無意識のうちに張り裂けそうな彼女への愛しい自分の想いを伝えたかったのかもしれません。
しばらくして唇を離し、鬼姫様の顔を見つめた時、静かに両の瞳を開いた彼女と視線が重なりました。
俺と目線があった瞬間、彼女はそっと両眼を細めて優しく微笑むと、俺の頬にそっと右手を伸ばしてきました。
そして流れ続ける俺の涙を指先でそっと拭うと、小さく首を傾げて言いました。
「……どうして泣いてるの?」
「わかんない」
自分でもどうしてこんなに涙が溢れるのか分からず、照れ笑いを浮かべながら俺が言うと、
「何だか……わかる気がする……」
優しい微笑みを浮かべたままそう呟いた鬼姫様は俺の頬にゆるゆると指先を滑らせたあと、静かに俺を抱き寄せ、そして耳元でそっと囁きました。
「大好きだよ……だーい好き……」
俺は彼女に抱き寄せられたまま、ぎゅうと目をつぶり、さらに涙を溢れさせていました。
先にも書いた事ですが、それまでも俺の女性経験はゼロではありません。
何度も「買った」ことがありました。
ただ、そこに心はありませんでした。
自分の醜い欲望を発散させようと必死な俺と、それを受けとめようと身体を駆使して巧みに演じる相手の女性がいるのみでした。
そんな心ないセックスしか知らないまま30を越え、もうダメだとあきらめそうになっていた時、突然現れた生まれて初めての恋人。それがこの鬼姫様でした。
仕事上でミスがあったらすぐに怒鳴り散らす短気な人。
けれどそれ以上に優しくて甘えん坊なお姫様。
そんな彼女への想いが、そして同時に鬼姫様の想いがお互いに無限に溢れ出て、この時はっきり形となって結ばれ合っていました。
それはそれまで経験してきたセックスとはあまりにも違いすぎました。
愛しい人と結ばれる事がこんなにも幸せな事だとは思ってもいませんでした。
それは身体だけでなく、心までもがドロドロに溶けてひとつに交り合っていくような、性器と性器を重ね合わせなくても、こうして抱き合っているだけでも何度も絶頂を迎えてしまうような、まさにこの世のものとは思えない極上の心地でした。
その幸せに自分は涙を流していたのだと思います。
いや、偉そうなことを長々と書きましたが、要は自分の好きな女性とこうして結ばれるその単純極まりない、しかし、この上なく幸せな出来事に感動の涙を流していた、というのが正しいのかもしれません。
しばらくして再びお互いの視線が重なり合いました。
と、またも二人はどちらからともなく唇を重ね合い、舌を交らせ合っていました。
ふと見ると、鬼姫様も伏せた両の瞳から涙を溢れさせていました。
お互い溢れる涙をそのままにしばらく抱き合ったまま互いの唇を、舌を貪り交わり続けるのでした。
と、このまま「愛に溢れる綺麗なセックス」が出来たらそれはそれは美しい物語なのでしょうが、ここが現実は違うといいますか……。
唇を離してお互いの顔を見つめ合った時、大きな瞳を潤ませて、少し不安げにこちらを見上げる鬼姫様の幼くて無垢な表情が目に入った瞬間、俺の中では完全にスイッチが入れ替わっていました。
ガバッと勢いよく顔を彼女の左耳に顔を寄せるとそのまま無様に舌を這わせていました。
「あぁっ!!」
俺の舌先がべろりと触れた瞬間鬼姫様は声を上げ、ビクッと身体をすくめました。
これにビックリした俺は一瞬動きを止めてしまいましたが、そのあとも再び舌を滑らせていき、さっき彼女が俺に行ったのと同じように、鬼姫様の小さく可愛らしい耳の隅々まで細かく、時に大胆に舌を這わせ続けました。
もっとも彼女ほど上手に出来たとは思いませんが……。
「あ……あ……ああ……う……ん……ひあっ! ……あ……ああ……」
俺の舌の動きに合わせて細く切なげに声を漏らす鬼姫様は身体をぴくぴくと細かく震わせながら、時折大きく声を弾かせてこちらの身体をぎゅうと思い切り抱きしめ、身体をこわばらせました。
ちらりと彼女の表情をうかがうと、眉間にうっすらと縦じわを刻んだ鬼姫様は、切なげに両眼を伏せ真っ黒の長い睫毛をふるふると細かく震わせていて、かすかに開かれた唇からは艶めかしく「はあ……はあ……」と熱い吐息をこぼし続けていました。
「もう……とろけちゃいそう……」
うっとりとこぼした鬼姫様の言葉にこちらまでとろけてしまいそうでした。
それからも俺は丁寧に時間をかけて彼女の小さな右耳を愛し続けました。
鬼姫様をまねて、ねっとりと舌を這わせ続けながら、何度も耳のあちこちをやわらかくはむはむと咥えたり、気まぐれに息を吹き込んだり……。
特に息を吹き込んだその瞬間彼女は、
「ひゃっ!」
と一際高く声を上げ身体をビクッと跳ねると、あとはへなへなへなと力なく身体を緩めていって、
「ああ……あああ……」
と細く儚げに声を漏らしていました。
その姿の可愛らしさといったらたまらないものがあって、俺はなおも鬼姫様の耳を舐め続けていました。
そして、もう一度彼女の耳の中に息を吹き込もうとした時です。
不意に左耳の穴のあたりにぞろりとした感触が走りました。
「ひぇっ!!」
ビックリして思わず声を上げた俺が見ると、頬を真っ赤に染めた鬼姫様が少し顔を持ち上げ、懸命に舌を伸ばして俺の左耳を舐めていました。
直後に俺と彼女の視線が重なると、
「……私もいっぱい舐めてあげる……」
そう言って鬼姫様は優しく微笑み、そのまま静かに両目を伏せると、俺の左耳をさっきしたのと同じように器用に舌を滑らせていました。
耳の襞から穴の奥まで丁寧にねっとりとちろちろと……。
そんな彼女の愛撫にくすぐったさとぞくぞくしたものを感じながら、
俺も再び鬼姫様の左耳に舌を伸ばし、舐めまわしていきました。
「ん……んん……」
鬼姫様の甘く濡れた声が転がるように奏でられる中、耳の69と言っては何ですが、二人はそれからも仲良く互いの耳を舐めまわし続けていました。
半端なところであれですが、今日はここまで、ということで……。
ちなみに今回から一応トリつけさせていただきました。
今後もこんな感じで続いていくと思いますので、気長にのんびりまったり読んでいただけたら嬉しいです。
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これは当時の職場の同僚の言葉です。
俺の勤めていた病院では、その日の夜の当直医が職員掲示板に張り出される仕組みになっていたのですが、この掲示板で鬼姫様の名前を目にしたら最後、
その日一日は極度の緊張に支配された憂鬱なものとなるのでした。
少しでもミスがあったら最後。速攻で鬼姫様の雷が落ちるからです。
ですから、そんな鬼姫様がいなくなったらいい、とは、当時彼女と職場を共にしていた人間の嘘偽りない本音だったっと思います。
しかし、その鬼姫様も今はどうかというと……。
興奮のためでしょうか?
「はあ……はあ……」
俺を抱きしめたまま丹念になおも俺の耳に舌を這わせ続ける鬼姫様が熱く湿らせた吐息をこぼすたびに、
「ゾゾゾ……ザザザ……」
こんなノイズが俺の耳の中で響き渡りました。
鬼姫様の舌先はぬるりと熱く濡れていて、まるで俺の事をゆっくりゆっくりとろかしていくようにして愛撫を続けます。
耳の輪郭を舐めまわしながら気まぐれに唇ではむと甘く咥えてきたり、そうかと思えば、ひだの中をまるで舌先で掬うようにして万遍なく丁寧に舐めまわした後は、器用に舌先を尖らせてそのまま狭い耳の穴の中に挿し入れ、うねうねと少し淫らにうごめかせたり……。
そうしながら、気まぐれにふーっと唇を尖らせて優しく細く長く息を吹き込んできたり、ちゅっちゅっと濡れた音を弾かせて耳のあちこちに口づけたりしてきたので、俺はくすぐったさと何とも言えない高ぶりに身体がゾクゾクと震えるのを我慢することができませんでした。
彼女の細く華奢な身体を抱きしめる力がいつしかこわばり、自分の吐息も鬼姫様と同じように乱れたものになっていっていました。
二人仲良く乱れた熱い吐息を交らせ合う中、鬼姫様は俺の事をぎゅうと抱きしめたまま、無限といっていいほどたっぷりの時間をかけて、なおも俺の耳に舌を這わせ続けていました。
「はあ……ねえ……おちんちん……舐めても、いい?」
息を乱れさせたままの鬼姫様が俺を見つめる左右の瞳をとろんと甘く潤ませて小さく首を傾げたのは、俺の両耳がドロドロになるほどさんざん舐めまわしたあとのことでした。
もうお湯からあがってだいぶ時間が経っていたのに、その両頬は真っ赤に染まっていて、また、頬と同じように赤く染まった彼女の細くやわらかな身体は燃えるように熱く、そしていつしか噴き出してきたたっぷりの汗のためにまるでオイルを塗り広げたように濡れた光を放っていました。
と、俺が返事をしようとする前に、彼女は不意に俺の唇を奪いました。
ぷにゅりとやわらかな鬼姫様の唇が重なるや否や、ぬるりと熱く濡れた舌が俺の中に入り込んできて、うっとりと瞼を伏せ小刻みに睫毛を震わせた彼女は、
「ん……ん……」
と甘い声をこぼしながら、俺を思い切り抱きしめたまま、二人のぴったり重なり合った唇の中で、ねっとりと大胆にそしてれろれろと細かく器用に舌をうごめかせていました。
突然の事にびっくりしながらも俺もキスは嫌いじゃなかったのでこれに応じてあげると、
彼女は「くぅん」と嬉しそうに声を漏らして俺の頭を掻き抱くとなおも舌を絡ませてきました。
鬼姫様の唇の中はまるで生温かなたっぷりのローションか何かを含んだように濡れていました。
彼女が唇を、舌を動かすたびに「ちゅぽちゅぽくちゅくちゅぷちゅぷちゅ」と、とろみのある淫らな水音がこぼれ、そしてどんどん溢れてくる彼女の唾液が二人の唇やあごを濡らしていきました。
しばらくお互い抱き合ったままこうして舌を絡ませ合った後、どちらからともなく「ちゅぽん」と音を立ててそっと唇を離すと、頬を真っ赤に染めた鬼姫様はそれまで伏せていた瞼をゆっくり開き、とろりとした視線をこちらにむけると、ぺろりと悪戯っぽく赤い舌を覗かせて、
「いっぱいいっぱい、ちゅうしちゃった」
と恥ずかしそうにそして嬉しそうに微笑み、再びそのやわらかな唇を俺の唇に重ねてきました。
この時のキスは一瞬で、すぐに彼女の唇が離れたあと、
「フェラしたいんじゃなかったの?」
と「おちんちん舐めたい」という彼女の要求と、濃厚にキスをするという実際の行動が異なることを俺が苦笑いしながら指摘すると、
「どっちもしたいの!」
と声を上げると鬼姫様はまるで子供のようにはしゃいだ様子を見せました。
「おちんちんも舐めたいし、ちゅうもしたいの! 悪い?!」
わざと大げさに頬を膨らまして拗ねてみせながら、けれどどこか嬉しそうな彼女に、
「いえいえ、全然悪くありません」
とこちらは苦笑いを浮かべることしかできませんでした。
おそらくは鬼姫様自身興奮していて、自分でも何をしているのかよくわからなかったのが真相なのでしょう。
と、ふっとはしゃぐのをやめた彼女が再びとろんとした視線をこちらにむけると、左手の人差し指を寂しげにその濡れた唇に添え、そっと小首を傾げて、甘くおねだりをするようにつぶやきました。
「……じゃあ、おちんちん、おしゃぶりしても……いい?」
病院では青い手術着の上に白衣を身につけ、さらに大きなマスクを着けてその素顔を見せず、しかも周囲に男言葉で厳しく接するのが当たり前の鬼姫様ですが、濡れた光を放つ黒く長い髪を頬に幾筋かほつらせながら、赤く染まったミルク色の華奢な身体にだらりと垂らしてペタリと座り込んだまま、おねだりをする子供のようにこちらを一途に見つめるその仕草はあまりにも愛くるしくて、見ているこちらは胸がいっぱいになってしまいました。
ごくりと唾を呑み込んで俺は言いました。
「その前に、おっぱい舐めさせてよ」
「え?」
こちらの言葉が予想外だったのか、鬼姫様は疑問の声を上げました。
そんな彼女に俺は静かに続けました。
「さっきは好きなようにさせてあげたでしょ? じゃあ今度はこっちのお願いも聞いてよ」
別にわがままを言っているつもりはありませんでした。
最初、初めて交わった時は完全に彼女のペースで最後まで事を終えました。
キスをして、彼女の言われるままフェラチオをさせてあげて、そしてそのまま結ばれて最後を迎えたのです。
ですから、今度はこちらの好きなようにさせて欲しい、愛しすぎる鬼姫様のすべてを自分の好きなようにたくさん愛したかったのです。
「えー……」
俺の言葉に彼女は少し頬を膨らまして、拗ねた様子を見せました。そして、
「……いじわる……」
上目遣いでこちらを睨みつけるようにしながら彼女は小さく呟いたのですが、その姿が自分の目にはあまりにも可愛く映りました。もう言葉に出来ないほど。
ですから、気がつくと、今度はこちらの方から思わず彼女をぎゅうと抱きしめその唇を奪っていました。
「……んぐっ!!」
突然の事に鬼姫様は一瞬戸惑った様子を見せ、身体をこわばらせましたが、
すぐにふっと緊張を緩めると優しく俺の背中に手をまわしてそのまま抱きしめ、
さっきと同じように唇をゆるりと開いて俺の舌を招き入れると、自分の熱く濡れた舌を絡ませてきて、
「ん、ん……んん……」と甘い声音をこぼしながら、ねっとりと俺と交わってくれました。
しばらくして、どちらからともなく唇を離すと、鬼姫様は俺をじっと見つめながら、ニッと白い歯を見せて実にさわやかな笑顔を作ると言ってくれました。
「好きにして……いっぱいいっぱい愛して……」
そしてそのまま彼女は俺の腕の中で真っ白い喉元を大きく露わにしていきながら、くーっと全身を大きく仰け反らせていきました。
それはまるで鬼姫様が自分のすべてを俺に捧げようとするかのようでした。
神々しいほどに美しくて眩しく、見ている両目がくらみそうでした。
そして、大きく仰け反りきった彼女がそのまま俺の両腕に全体重を預けてきたので、俺はこれを必死に支えながら、いつしかなぜか涙が溢れてきて止まりませんでした。
どうしてこの人はこんなに愛しいのだろう、と。
「あ……んん……はあっ……ああっ……! あ……ん……」
日が沈んできたために外が暗くなり始めていたにもかかわらず、電気をつけていないために一際暗い別荘の中では、ただ鬼姫様の甘く濡れた声が静かに響いていました。
露天風呂近くのフローリングの床の上で大きく仰向けに横たわった鬼姫様は、興奮して鼻息を荒くしながら彼女に覆いかぶさっていた俺の好きなようにされていました。
静かに両目を伏せたまま俺に身を預けた鬼姫様を床に横たえた後、俺は彼女に静かにそのまま覆いかぶさると、まず濡れた髪を何度も丁寧にかきあげて、露わとなったその額にそっと口づけました。
優しく優しく静かに口づけて、そのまましばらくずっと唇を離しませんでした。
自分で言うのもなんですが、この時は興奮とか厭らしい気持ちとかは一切なくて、ただただ彼女への愛しい想いで胸がいっぱいでした。
さっきから溢れていた涙は止まりませんでした。むしろ一層溢れてきました。
何でこんなことをしたのか自分でもよくわかりません。
ただ、無意識のうちに張り裂けそうな彼女への愛しい自分の想いを伝えたかったのかもしれません。
しばらくして唇を離し、鬼姫様の顔を見つめた時、静かに両の瞳を開いた彼女と視線が重なりました。
俺と目線があった瞬間、彼女はそっと両眼を細めて優しく微笑むと、俺の頬にそっと右手を伸ばしてきました。
そして流れ続ける俺の涙を指先でそっと拭うと、小さく首を傾げて言いました。
「……どうして泣いてるの?」
「わかんない」
自分でもどうしてこんなに涙が溢れるのか分からず、照れ笑いを浮かべながら俺が言うと、
「何だか……わかる気がする……」
優しい微笑みを浮かべたままそう呟いた鬼姫様は俺の頬にゆるゆると指先を滑らせたあと、静かに俺を抱き寄せ、そして耳元でそっと囁きました。
「大好きだよ……だーい好き……」
俺は彼女に抱き寄せられたまま、ぎゅうと目をつぶり、さらに涙を溢れさせていました。
先にも書いた事ですが、それまでも俺の女性経験はゼロではありません。
何度も「買った」ことがありました。
ただ、そこに心はありませんでした。
自分の醜い欲望を発散させようと必死な俺と、それを受けとめようと身体を駆使して巧みに演じる相手の女性がいるのみでした。
そんな心ないセックスしか知らないまま30を越え、もうダメだとあきらめそうになっていた時、突然現れた生まれて初めての恋人。それがこの鬼姫様でした。
仕事上でミスがあったらすぐに怒鳴り散らす短気な人。
けれどそれ以上に優しくて甘えん坊なお姫様。
そんな彼女への想いが、そして同時に鬼姫様の想いがお互いに無限に溢れ出て、この時はっきり形となって結ばれ合っていました。
それはそれまで経験してきたセックスとはあまりにも違いすぎました。
愛しい人と結ばれる事がこんなにも幸せな事だとは思ってもいませんでした。
それは身体だけでなく、心までもがドロドロに溶けてひとつに交り合っていくような、性器と性器を重ね合わせなくても、こうして抱き合っているだけでも何度も絶頂を迎えてしまうような、まさにこの世のものとは思えない極上の心地でした。
その幸せに自分は涙を流していたのだと思います。
いや、偉そうなことを長々と書きましたが、要は自分の好きな女性とこうして結ばれるその単純極まりない、しかし、この上なく幸せな出来事に感動の涙を流していた、というのが正しいのかもしれません。
しばらくして再びお互いの視線が重なり合いました。
と、またも二人はどちらからともなく唇を重ね合い、舌を交らせ合っていました。
ふと見ると、鬼姫様も伏せた両の瞳から涙を溢れさせていました。
お互い溢れる涙をそのままにしばらく抱き合ったまま互いの唇を、舌を貪り交わり続けるのでした。
と、このまま「愛に溢れる綺麗なセックス」が出来たらそれはそれは美しい物語なのでしょうが、ここが現実は違うといいますか……。
唇を離してお互いの顔を見つめ合った時、大きな瞳を潤ませて、少し不安げにこちらを見上げる鬼姫様の幼くて無垢な表情が目に入った瞬間、俺の中では完全にスイッチが入れ替わっていました。
ガバッと勢いよく顔を彼女の左耳に顔を寄せるとそのまま無様に舌を這わせていました。
「あぁっ!!」
俺の舌先がべろりと触れた瞬間鬼姫様は声を上げ、ビクッと身体をすくめました。
これにビックリした俺は一瞬動きを止めてしまいましたが、そのあとも再び舌を滑らせていき、さっき彼女が俺に行ったのと同じように、鬼姫様の小さく可愛らしい耳の隅々まで細かく、時に大胆に舌を這わせ続けました。
もっとも彼女ほど上手に出来たとは思いませんが……。
「あ……あ……ああ……う……ん……ひあっ! ……あ……ああ……」
俺の舌の動きに合わせて細く切なげに声を漏らす鬼姫様は身体をぴくぴくと細かく震わせながら、時折大きく声を弾かせてこちらの身体をぎゅうと思い切り抱きしめ、身体をこわばらせました。
ちらりと彼女の表情をうかがうと、眉間にうっすらと縦じわを刻んだ鬼姫様は、切なげに両眼を伏せ真っ黒の長い睫毛をふるふると細かく震わせていて、かすかに開かれた唇からは艶めかしく「はあ……はあ……」と熱い吐息をこぼし続けていました。
「もう……とろけちゃいそう……」
うっとりとこぼした鬼姫様の言葉にこちらまでとろけてしまいそうでした。
それからも俺は丁寧に時間をかけて彼女の小さな右耳を愛し続けました。
鬼姫様をまねて、ねっとりと舌を這わせ続けながら、何度も耳のあちこちをやわらかくはむはむと咥えたり、気まぐれに息を吹き込んだり……。
特に息を吹き込んだその瞬間彼女は、
「ひゃっ!」
と一際高く声を上げ身体をビクッと跳ねると、あとはへなへなへなと力なく身体を緩めていって、
「ああ……あああ……」
と細く儚げに声を漏らしていました。
その姿の可愛らしさといったらたまらないものがあって、俺はなおも鬼姫様の耳を舐め続けていました。
そして、もう一度彼女の耳の中に息を吹き込もうとした時です。
不意に左耳の穴のあたりにぞろりとした感触が走りました。
「ひぇっ!!」
ビックリして思わず声を上げた俺が見ると、頬を真っ赤に染めた鬼姫様が少し顔を持ち上げ、懸命に舌を伸ばして俺の左耳を舐めていました。
直後に俺と彼女の視線が重なると、
「……私もいっぱい舐めてあげる……」
そう言って鬼姫様は優しく微笑み、そのまま静かに両目を伏せると、俺の左耳をさっきしたのと同じように器用に舌を滑らせていました。
耳の襞から穴の奥まで丁寧にねっとりとちろちろと……。
そんな彼女の愛撫にくすぐったさとぞくぞくしたものを感じながら、
俺も再び鬼姫様の左耳に舌を伸ばし、舐めまわしていきました。
「ん……んん……」
鬼姫様の甘く濡れた声が転がるように奏でられる中、耳の69と言っては何ですが、二人はそれからも仲良く互いの耳を舐めまわし続けていました。
半端なところであれですが、今日はここまで、ということで……。
ちなみに今回から一応トリつけさせていただきました。
今後もこんな感じで続いていくと思いますので、気長にのんびりまったり読んでいただけたら嬉しいです。
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