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家出して不良に絡まれているところを関西弁の美人なお姉さんに…1

もう3年前の話なんだがな。

家出した理由はそれなりに家庭の事情だった。
両親不仲で毎日喧嘩してて嫌になって家飛び出した。
15歳だった。

親の財布から抜いた一万円で全く知らない街に行った。
自分の財布ぐらいしか持ってなかった。
携帯は電話鳴ると鬱陶しいから置いてきた。

夜の22時過ぎに電車降りた。
それなりに都会だった。
とりあえずどうしようと駅前の広場にあるベンチに座って考えてた。

家出した高揚感が次第に収まっていった。
だんだん都会が恐く思えてくる。まあガキだったし。


歳上の男や女が凄く恐く思えた。
だいそれた事をしてしまったんだと思って悲しくなった。
半泣きだった。

俯いてると声をかけられた。

「何しとん?」




顔を上げるとニヤニヤと笑う3人がいた。歳上の男と男と女だった。
凄く不快な笑みだった。
玩具を見つけた、みたいな。

逃げ出したくて仕方ないのに体が動かない。
蛇に睨まれたカエルみたいな?

「なぁ何しとん?」

目をまた伏せて震えた。
今から殺されるんだぐらいの勢いで恐かった。

「大丈夫やって、何も恐い事せんから」

悪役の台詞だと思った。

けど今にして考えれば悪役じゃなくてもいいそうな台詞だ。
とにかく当時の俺には恐怖に拍車がかかった。
また震えた。

ごめんなさい、と呟いた。

「つまんね」

開放されると思った。

「お金ある?」

すぐにこれがカツアゲだとわかった。
産まれて初めての経験だ。
恐い恐い恐いって。
あの時の俺はとにかく臆病だった。

財布には親から抜いた一万円(電車代でちょっと減ってる)と、自分のお小遣い数千円があった。

けどこれを失くしたらもうどうしようもなくなる。
金がなくても警察に行けば帰れるとか、当時の俺は思いつかなかった。
だからそのままホームレスになって死ぬんだと思った。

ないです、と答えた。

「嘘はあかんて。な?財布出せや」

駅前の広場は他にもたくさん人がいたけど誰も助けてくれる人はいなかった。
ドラマじゃよく聞く光景だ。誰も助けてくれない。
でもそれは本当なんだな、と思った。

「なあ?」

男が俺の頭を鷲掴みにする。

言っておくがこの3人はただの不良だ。
けどまあ、この3人のお陰で俺はお姉さんに拾ってもらえた。

「何しとん?」

それが初めて聞いたお姉さんの声だった。

と言っても、俺は向こうの仲間が増えたと思ってまたビクついた。
けど3人の対応は違った。

「何やねんお前」
「いやいや、自分ら何しとん?そんなガキ相手にして楽しいん?」
「黙っとれや。痛い目見たなかったらどっか行かんかい」
「流石にガキ相手に遊んどるのは見過ごせんわ。ださ」
「あ?」

まあ、会話はおおよそだから。
でもこんな感じだったと思う。

恐くってどんだけ言うんだって話だけど、やっぱり恐くて上が向けず、お姉さんがどんな人かもわからなかった。

「調子乗っとるな、しばいたろ」

3人組の女の声だ。
他の2人も賛同したのか視線はそっちに向いた気がした。
少なくとも俺の頭を掴んだ手は離された。

「ちょっとそこの裏路地来いや」

とか、そんな風な事を言おうとしてたんだと思う。
けど、それは途中で終わった。

「うそやん」

妙に驚いてた気がする。
声色だけでそう思ったんだけど

「シャレにならんわ。ほな」

関西弁の人ってほんとにほなって言うんだ、とか調子の外れた事を思った。
それから暫くして俺の肩に手が置かれた。
ビクッと震える。

たっぷりの沈黙の後

「何しとん?」

さっきまでの3人組みたいな声じゃなくて、ちょっと優しい雰囲気があった。

恐る恐る顔を上げると、綺麗なお姉さんがそこにいた。
髪は長くて真っ赤だった。
化粧もしてて、大人のお姉さんだと思ったけど、今にして考えてみればあれは多分、V系だったんだろう。

何にせよ綺麗だった。
同級生の女子なんてちっさく見えるぐらい綺麗だった。

「ありがとうございます」

と、つっかえながらも何とか言えた。

「んなもんええけど、自分アホやろ?ガキがこんな時間彷徨とったらアホに絡まれんで」

家出したと言ったら怒られると思って下を向いた。
お姉さんは大きな溜息を吐いた。

「めんど、訳ありかいや」

やけに言葉が汚いお姉さんだと思った。

■お姉さんスペック。

・身長170越(自称)
・外だと厚底履いてるから175は越えてる。
・スレンダー
・Dカップ
・赤髪ロング
・耳にピアスごじゃらら
・関西人っぽい
・年齢不明(見た目18~21)
綺麗だと思う。

暫く沈黙が続いた。
というかお姉さんタバコ吸ってるみたいだった。
タバコの匂いがやたら甘かった。

「ああ……腹減った」

お姉さんが言う。

言われてみれば俺も腹が減っていた。
家出してかれこれ5時間、電車の中でポッキー食べたくらいだった。

「ファミレス行こか」
「?」
「ファミレス。ほら、行くで」

近くのファミレスに行く。
着いて適当に注文する。

お姉さんは凄く目立つ。
赤髪、ロング、黒服、ピアス。
綺麗だし、目立つ。

「自分なんも喋らんな。病気なん?」
「ち、違います」
「ああ、あれ?恐い?そやな、よく言われるんよ、恐いって」
「い、いや」

何て言おうとして否定したのかは知らんが、まあ誰でもそう反応するだろ?

俺はハンバーグ。
お姉さんは野菜盛り合わせ。

「んで、何で家出したん?」

驚き過ぎてむせた。
何で分かるんだこの人は、超能力者か。
とか考えたかは知らんが驚いた。

でも今にして考えれば解る事かもしれん。
夜の22時過ぎに家に帰らない子供。

思いつくのは塾帰りで家に帰りたくないか。
夜遊びするガキか。
家出か。

なのにその時の俺は塾に行くような鞄持ってなかったし、遊んでそうなガキに見えなかったろうから、家出。

カマかけてきたんだろう。

でも当時の俺はただただ、大人のお姉さんすげーって思うだけだった。

「家が……色々」

「ふうん、そっか」
「まあその歳やと色々あるわな」

「で、どないするん?いつ帰るん?」
「……帰りたくないです」

「そりゃ無理やろ。仕事もないし、ってか仕事出来る歳なん?」
「15です」

「ギリやな。家もないし金もないやろ?」
「……」

それでも帰りたくなかった。
俺にとってあの当時の家はかなり地獄だった。
まあ、もっと酷い家庭はあると今なら分かるけど。

「1週間もしたら帰りや」
「……はい」

「ほんじゃ、飯食ったら行こか」
「?」

「うち、一部屋空いとるから」

こんな経緯で俺はお姉さんに拾われた。

お姉さんの家は都会の駅から4つ。
閑散とした住宅街だった。

見た目とは裏腹な場所に住んでるなと思ったけど、住んでるのは高層マンションの最上階だった。
お金持ちなんだと思った。

「片付けてないけどまあ歩けるから」
「お邪魔します」

玄関入ると左手に一部屋。
右手にトイレ、浴室。
奥にリビング。
リビングの隣に一部屋。

「ここ、物置みたいなもんやから使って」

俺は玄関入って左手の部屋に案内されたけど、ほんとに物置だった。

「衝動買いしてまうんよね、はは」

お姉さんが照れくさそうに笑う。
知れば知るほど見た目とのギャップに困惑した。

でもそのギャップに惹かれた。

「とりあえず風呂でも入ってきたら?」
「はい」

初めて女の人の部屋に泊まるわけだけど、だからどうだって緊張感はなかった。
ガキだったから。

そりゃエロ本も読んだ事あったけど、そんな展開になるわけないって思ってたし。

シャワーを浴びて体を拭く。

「洗濯機の上にパジャマと下着出しとるから」

見るとそれは両方とも男物だった。
何で男物があるんだろうと考える。

以前同棲してたから?
ありうる。
だから一部屋余ってるんだと思った。
こんな綺麗なお姉さんだ、彼氏がいない方がおかしい。

下着とパジャマを着てリビングに行く

「サイズちょうどええみたいやな、よかったよかった」
「やっぱうちとおんなじくらいやねんな」

「……?」
「それ両方うちのやねん。男もんの方が楽でな」

途端に俺は恥ずかしくなった。
いつもお姉さんが着ているものを着てるのだ。
下着も。

不覚にもおっきした。
いや不覚も糞もないか。
ガキだし。

でもそれはバレないようになんとか頑張った。
中腰で。

「ん?んん?なーんや、お姉さんの色気に当てられてもたん?」
「ははっ、若いなあ」

速攻でバレた。
恥ずかしさが一気にヒートする。

「ええよ気にせんで、なんし男の子やねんから。ほら、そこ座り。コーヒー……は飲めんか」
「飲めます」

「おお、君飲む口か」

嘘だ、コーヒーなんて飲めない。
苦い。
でも子供扱いされたくなかった。

お姉さんに一番気になっていた事を聞く。

「どうして、その、泊めてくれるんですか?」
「そりゃもちろん」

なんだそんな事かと言わんばかりに、お姉さんは興味がなさそうに携帯に視線を戻して、

「暇潰し」
「暇潰し、ですか」

「うん」
「そうですか」

「何やと思ったん?」
「……?」

「お姉さんが君に惚れたとでも思った?」
「いえ」

「そこは嘘でも頷いたらいいボケになんねんけど、って、あ、君こっちの子ちゃうんよな」
「はい」

「ほんじゃせっかくやねんから関西のボケとツッコミを勉強して帰りや」
「はぁ…」
「そしたら家の事も大概どうでも良くなるわ」

それは嘘だと流石に思った。

コーヒー。
目の前にブラックな飲料が差し出される。

「砂糖は?」

首を横に振った。

湯気だつコップを持つ。
覚悟を決めて口につける。
うげえ。

「はっはっは!梅干食っとうみたいなっとうやん!」

お姉さん爆笑。

俺は俯く。

「無理せんでええて。ミルクと砂糖持って来たるから」
「うちも自分ぐらいん時コーヒーなんて飲めんかったし」

その言葉で救われた気がする。

お姉さんも子供の時があったんだな、なんて。
当たり前なんだけど。

「あの」
「ん?」

お姉さんは頬杖をついて携帯をいじっていた。
話しかけると綺麗な目を俺に向ける。
まっすぐに向ける。
心が囚われる。

「どないしたん?」
「あ、えと」

俺自身口下手な方だし、お姉さんは自分の世界作ってるような人だし、特に会話は続かなかった。


お姉さんの部屋から流れる音楽。
フィーリング音楽(?)が心地よくて、時間が過ぎるのを苦もなく感じられた。

「そろそろ寝るわ」
「はい」

「明日はうち夜から仕事やから」
「はい」

「夜からの仕事、ついて来れるように調節してな」
「……はい?」

「やから仕事やって。自分、もしかしてタダで泊めてもらえるおもたん?」
「いや、そんな事は、ってかその僕、大丈夫なんですか?」
「平気平気。うちの店やから」

お姉さんは自分の店も持っていた。

先に言っておくとそれはBARなわけだけど、やっぱりお姉さんかっけーってなった。
まさかあんな格好させられるとは思わなかったけど。

夜から仕事で起きるのが夕方だったから、俺は結局朝まで起きてた。
それ自体は物置にある本棚に並べられた本を読んでれば問題なかった。

<続く>

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