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私の罪 2

3ヵ月程過ぎ、私の元会社が1部門として動き始めた頃、叔父からある提案がありました。
妻を本社の経理として使いたいというのです。
たしかに妻は経理に明るいのですが、私の所はすでに1部門に過ぎないから、経理の人間はいらないだろうという事でした。
不安がありました…あの日の、叔父の妻に対する馴々しさ…そして元来の叔父の好色な性格…

その夜、何ヵ月かぶりに妻を抱きました。
久しぶりにお互いの肌の温もりを感じ、果ててしまった後、妻に叔父からの提案を話しました。
妻は、社長の命令なんだったらそうするしか無いんじゃない…と言います。
私は思い切って、心の中にある漠然とした違和感をぶつけてみました。

「叔父さんと何かあったか?」
そんなような事を妻に言ったと思います。
妻はあまり見せた事も無いような悲しそうな顔をして、
「どういう意味…?何もあるわけないでしょ?」と呟いたきり顔を臥せ、
その夜それきり口を開く事はありませんでした。



妻が叔父の会社で経理として働き始めてしばらく経ちました。
それまで妻と二人三脚で一緒にやってきたのに、その妻が傍にいないというのは、結構寂しいものです。
時々、本社から妻が電話を掛けてきます。あくまでも仕事の話のために。
本社の経理担当として、私と喋る妻の声を聞くのは寂しい以上に、何か妻との距離感みたいな物を感じずにはいられませんでした。





帰宅時間も次第に妻の方が遅くなってきました。
叔父の接待の席に同行させられたと言って、あまり酒も飲めないのに、深夜2時くらいに帰宅する事もありました。

叔父の会社は、地元で手広く建設と不動産をやっていますので、業界関係や行政の人間を接待したり、叔父自身、酒の好きな人間なのでそういう連中と飲み歩く事が頻繁にあるのです。
叔父は、妻をそういう席に連れ出すようになっていました。

しかし、叔父の…社長の命令だからと言われれば、私は黙るしかありません。
ある日の酒席に、私も同席する事になりました。
地元の商工会議所の連中との宴会です。
仕事を早めに切り上げ、店に着くと、叔父の車も到着した所でした。
叔父と妻が降りてきます。叔父は私を見つけると、にこやかに「ごくろうさん」と声を掛けてきました。

妻は私と目が合うと、何か訴えるような表情を見せながらも、どこか他人のような雰囲気を出していました。

宴会が始まり、妻は叔父の隣に座り、私は2,3席空いた席に座ります。
女は妻しかいないため、女中のように酌をして回り、返杯を無理矢理飲まされている妻がいました。
大学時代から本当に生真面目な妻で、酒の席などにはほとんど縁の無かった妻でした。
酌などするのも、叔父の会社に入って初めて経験したのではないか…
という妻です。

酌をする手もぎこちなく、卑猥な冗談を言われても赤面するだけで、うまくかわす事もできません。
そんな妻に、このような思いをさせて…私は自分自身が情けなくて仕方ありませんでした。
宴会が終わり、二次会にという話になった頃、叔父が私に耳打ちしてきました。
翌日の仕事の為に、私には先に帰れという事でした。
その上で、女っ気が無いのは寂しいから妻はもう少し借りて行くというのです。

私は妻の事が心配で、妻に酔い過ぎてるから一緒に帰ろうと促したのですが、
妻は「大丈夫…」と言い、結局叔父の車に乗せられてしまいました。
私は一人帰宅しましたが、寝付けるわけも無く、妻が帰宅するまで起きていました。
深夜3時を回っていました。
妻がタクシーの運転手に抱えられながら、泥酔状態で帰宅したのです。

玄関を入ると、そのまま倒れこみ寝息を立て始めました。
そんな妻の姿を見ると、怒りなどより、妻に対して申し訳なさを噛み締める自分がいました。
私は妻を寝室まで抱き抱えて行き、ベッドに寝かせ灯りをつけました。
そして、タンスから赤いパジャマを取り出し、着替えさせようと纏っていた厚手のコートを脱がせたのです。

私は愕然としました。
上着のボタンは一個ずつ掛け違いで止められ、ブラウスのボタンはだらしなく開き、裾さえもスカートから出ている状態でした。
そして、宴会時には穿いていた薄茶色のパンストさえも脱いでおり、色白のムチッとした足がスカートからのびていました。

しかし、それ以上に私を動揺させた事…妻はブラジャーもパンティも身につけてなかったのです。
生真面目な妻が、下着を着けずに外出するなど考えられません。
嫌な予感が私の中を渦巻いていました…。

妻をパジャマに着替えさせ、私はそのまま一睡もできず、朝を迎えました。
私の横では、可愛い妻が寝息をたてて眠っています。
そんな妻が、初めて見せた失態、そして、下着の行方が気になり、普段妻が持ち歩いているバックの中に下着があるのかも・・・と探しましたが、見当たりませんでした。

8時過ぎ、会社に行く準備をしていると、叔父から電話がはいりました。
昨夜は妻に酒を飲ませすぎて、きっと二日酔いで起きられる状態じゃないだろうから、会社は休ませていいという事でした。
そして叔父は、妻を遅くまで連れまわし、飲ませすぎた事を冗談めかしながら、軽く詫びてきました。

私は叔父の声を聞きながら、怒りをぶつける事もできず、まして妻が下着を身に着けていなかった事への不信感を、口にする事もできないまま愛想笑いをして電話を切りました。

仕事をしていても、頭の中は上の空で、妻の事でいっぱいでした。
泥酔して帰宅した妻が下着を身に着けていなかった・・・その意味を考え込んでいました。
酒の席での卑猥なゲームで、下着を見せるとか、脱いでしまうとか・・・私自身も、そんな場面に何度か立会い、楽しい思いをした事もあります。
自分の中で、せめてその程度の戯れ事であって欲しい、という願いが強くなっていました。

仕事を終え、帰宅すると妻は夕飯の支度をしていました。
その様子は、しばらく見ていなかった光景のように思えました。
会社を叔父の手に委ね、私は叔父の雇われの身となり、妻は叔父の元で、秘書のような仕事をする生活・・・妻が私より先に帰宅している事はほとんど無くなっていました。

妻は昨夜泥酔して帰宅した事を詫び、まだフラフラするんだ、というような事を話してきました。
下着の事を問い詰めようかと思いました。
しかし、私はその事について妻に口を開く事ができませんでした。

また変わらない生活が続きました。
私は自分の職場に通い、妻は叔父のいる本社に通います。
妻からは仕事の電話が掛かってきます。
そのたびに私は、言い知れぬ妻との距離感を感じ、それは日を追うごとに大きくなっていきました。

妻の下着の一件から一ヵ月近く過ぎた頃、私は仕事で外回りをし、偶然に叔父の豪邸の前を通りました。
今頃、本社で仕事をしているんだろうな・・・と妻の顔を思い浮かべながら、通り過ぎようとした時でした。

叔父の家のガレージには、平日叔父が会社にいる時は、プライベートで使用している高級外車が、1台だけ止まっているはずです。
しかし、その時ガレージには、叔父の外車と仕事用の車、その隣に小さな軽自動車が止まっていました。
妻の車でした。


偶然通りかかった叔父の家のガレージに、妻の車が止まっているのを見つけてしまった私…それまで漠然と感じていた違和感が、一気に現実味を帯びた瞬間でもありました。
叔父も妻も家の中にいるのか…もしかしたら、ゴルフか何かの接待で、車は叔父の家に止めて出かけているのではないか…そう考えるしかありませんでした。

叔父の家に入って確かめる。
思えば、確かめてしまう事が恐かったのでしょう…そんな勇気は湧いてきませんでした。
私は緩めたスピードを元に戻し、外回りの仕事を続けました。
夜になり、私は誰もいない暗い家に帰宅します。

自分と妻の分の夕飯を作り、妻の分にはラップを掛けておいて、一人食事を摂る。
ほとんど毎日がそんな生活になっていました。

夜9時をまわった頃、妻が帰宅しました。
「ごめんね。急に会議に呼ばれちゃって…」妻は、私より帰宅が遅くなる事を、そのたびに必ず謝ってくれました。
私は妻の夕飯を温め直してやりながら、質問してみました。

妻の車が、叔父の家に置いてあった事は事実ですから、どこか接待にでも連れ出されていた…そんな答えを期待していました。
「今日は仕事疲れた?どっか行ったりしたの?」
問い掛ける私に妻は、
「ううん。いつもと一緒だよ。デスクで数字とにらめっこ…どうして?」
嘘をつかれました…

もちろん、叔父と妻に、何かあるというのを目にしたわけではないし…でも、もし何かあっても現状では仕方無いのかな…と、そんな考えにも陥っていました。

結局、確かな事実を目の当たりにする事も無く、ただ叔父と妻の関係に対する、不信感のような物を募らせながら、月日だけが流れていきました。
叔父に雇ってもらう身となり、妻が叔父の秘書のようになってから、約1年が経過し、今から3年前の暮れになっていました。

叔父の会社では2,3年に一度、大々的に泊まりでの忘年会を開いていました。
近場の温泉に宿を取り、約30人の社員とパートさんなども一緒に参加するイベントです。
妻は当然強制参加で、私はやめておこうと思ったのですが、結局叔父に勧められて参加する事になりました。
バスの中では最後列に叔父と私の妻、それに幹部連中が陣取り、乾杯とともに酒盛りが始まっていました。

私も多少顔見知りの社員と酒を交わしながら、せっかくの忘年会を楽しむ事に専念しました。

叔父は酔ってくると、まるで愛人かのように妻の肩を抱き寄せ、時々耳元に口を付けては何か囁いたりしています。
妻は嫌がる素振りをしながらも、完全に拒否もできず、作り笑いを浮かべて私の視線を気にしたりもしていました。

しかしその頃、その程度の叔父と妻のじゃれ合いには、慣れてしまった自分もいました。
接待や酒の席で、しばしば見せられる愛人関係のような雰囲気…
嫉妬が無いわけではありません。
でもそれ以上に、叔父に見離され、自分と妻の生活を失う事が恐かったのです。
そうならない事が、妻の幸せにつながるとも思っていました。

<続く>

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