誠実な人 3【寝取られ】
高台からの坂道を下りきると、握り締めた携帯がブルブルと再び振動を始めました。
携帯を耳に持って行き、真正面に顔を向けると、50メートル先に男性が携帯を持ってこちらに軽く会釈をしているのが見えます。
権藤さんでした・・・。
私達は、また、駅前の喫茶店に入りました。
「私には説明責任があるんじゃないかと思いまして・・・。」
権藤さんは、以前、喫茶店で打ち明けた時よりも、更に緊張した趣で、話し出します。
私は、真実を知っているだけに、何が彼をこうにまで、硬直させているのかは判ります。
もっとも、こちらがすべてを知っているとは、つゆとも思わないでしょう。
そんな情報の優位からか、私は妙に冷静でした。
どんな言葉が続くのか、そう考える余裕さえありました。
「お二人にはなんとお礼を申し上ればいいのか。お陰様で・・・、固さを取り戻すことが出来ました。」
彼は、軽くその場で頭を下げた後、自分の分身が固さを取り戻していく様を、忠実に、私へと説明しはじめました。
「明かりを落としてオレンジ色になった部屋で、私達は、ソファーへと腰掛けました。私は奥様を左にして、どうしようもないくらい心臓がドキドキしていました。」
唇をかすかに震わせながらも、一言々々、言葉を選びながら話を続けます。
「奥様のことを考え、私は、ひざ掛けを掛けました。もちろん、その下では、私はなにも身につけていません。」
権藤さんはコーヒーを一杯口に含むと目を閉じました。
「二人とも、次にどうアクションを起こせばいいのか、どちらが先手をとるのか。互いに固まってしまいました。あれほど、どうしようもないくらい長く感じられた時間はありません。」
彼は、目を閉じたまま、話を続けます。
記憶を引っ張りだすように瞼に写ったあの情景を思い出そうとしているのでしょうか。
「しばらくすると、奥様の指先が私の分身へと触れ、思わず、全身に電気が走りました。奥様の指が柔らかで、少し寄った時に香った奥様の髪の匂いがなんとも言えませんでした。全てが特別でした。」
私は、目を閉じた彼の顔をじっと見つめました。
もし、彼が目を閉じていなければ、視線のやり場に困っていたことでしょう。
彼が目を閉じることによって、互いの顔色を窺わなくてよいのです。
「私の中で何かが沸騰し始めていることに気づきました。もう少しで、求めていたあの感触を取り戻せる予感がしました。そして、ついに、握り締めた奥様の手の中で、分身がズンと天を向いたのです。永らく忘れていた感覚でした。このまま死んでもいいとさえ感じました。」
心持ちか、権藤さんの頬が赤みを帯びているような気がします。
あの情景を思い出して、興奮しているのでしょうか。
「それに続いて、勃起した肉棒を扱かれる感覚・・・。まさか、こんな感覚を再び取り戻せるとはおもいませんでした。奥様は俯きながら視線をそらして扱いてらっしゃいました。扱く動きでは無理があるのでしょう、何度も腰掛がはだけ、その度に、奥様はお戻しになりました。それでも、はだけてしまう。ついには、奥様は掛けるのをおやめになりました。」
あの思い切りのよい献身的な姿は私も忘れられません。
「そこまでされて、献身的に他人のペニスを扱く奥様の姿のいじらしさに私は胸を打たれました。けれども、射精に至らない自分へのジレンマ・・・・。」
そこまで言うと、彼は閉じていた目を開き、またコーヒーを口に含み、下へ視線をやりました。
事実を伝えるつもりなのだ、私はそう察しました。
「実は・・・。」
もちろん、私は、その先の出来事を知っていました。
そして、「全てを知っている」と権藤さんを無碍も無く静止することも出来ました。
しかし、私は、敢えて、それをしませんでした。
償いとして、全てを告白させようという意地の悪い気持ちと、権藤さんの口から語られる情事を聞いてみたいという気持ちが、それを思いとどまらせたのです。
思えば、あの瞬間、止めに入らずに覗いていた心の奥底と関係があるのかもしれません。
「はぁぁ・・・。」
権藤さんは、深いため息をつくと、小さな声で続けました。
「私は・・・奥様を抱いてしまったのです。」
私は、目をそらさず、権藤さんの顔を見つめました。
「奥様の健気な奉仕にも、私は、射精することができず、射精に至らない自分に対する葛藤のようなものを感じました。独りよがりな葛藤です。」
権藤さんは、私から視線をそらすように、再び目を閉じます。
それでも、彼はありのままを言い続けます。
胸のうちを振り絞ります。
「回復した分身に、射精、そして、女体という更に至上の喜びを与えたいという衝動、今そばに居る奥様を抱いてみたいという欲望、全てが入り混じったとき、思わず、『奥様を抱かせてください。』と口にしていました。私は、なんとか奥様を言いくるめようと、必死でした。」
こんな気持ちで、あの場に居たのかと・・・、衝撃的でした。
「優しい奥様は、私の無理な願い事を、旦那様にはもちろん秘密の上、ゴムをつけるという条件と引き換えに、承諾をしてくださいました。悪いのは私です。奥様の優しさに付け込んだのも同然です。」
権藤さんの話は止まりません。
罪悪感からか、全てを告白しなければならないかのように喋り続けます。
「恥ずかしいからと、パンティだけを脱いだ奥様の中に私は挿入しました。奥様の中は、暖かく、私のペニスを優しく包み込みました。まるで、再び、童貞を失ったような気持ちでした。引き抜こうとすると、私のイチモツに奥様が絡み付いて、腰砕けになりそうでした。突き上げる度、服の上からも乳房が揺れるのがわかり、しばらくすると、奥様の頬がうっすらと桃色に染まって、じんわり汗を吹き出していく様子に益々欲情してしまいました・・・。」
「たまらず、私は欲望に任せるまま、奥様の足を担ぎ上げ、己の肉塊を打ち付けました。その時の眉間を寄せた奥様の表情が悩ましく見えたこと・・・。奥様が私にしがみついて、身体が密着し、私は一つになりました。全てが最高でした。」
興奮が極まっていくのでしょう、権藤さんの言葉の一つ一つが次第に力強くなっていきます。
「私は思わず、いい、いいと連発しました。それからは、無我夢中です。射精の感覚が近づいているのがわかりました。久方ぶりの射精です。しかも、奥様というすばらしい方を相手にしての射精。私は幸福感に包まれたまま、絶頂を迎えました。」
すこし間を空けた後、権藤さんはゆっくりと続けました。
「行為の後、奥様は、コンドームを処理してくれました。実にけなげな奥様ですね・・・。そんな奥様を見ているとムラムラとしてきて・・・、射精したペニスを口で清めて下さいますか?と、私は口に出してしまいました。」
まさか、私が立ち去った後にこんなことがあったとは知りませんでした。
私の手がじんわりと汗ばんでいきます。
「口でですか・・・。」
喫茶店に入った時の様な余裕は少なくなり、私は沈黙を破らざるを得ませんでした。
「ええ、口でです。すみません、私は取り乱していたのです。もちろん、奥様は一瞬驚いたような顔をされていました。けれども、優しさからでしょう、ソファーに腰掛けた私のペニスを口に含んでくれました。」
ソファーに腰掛ける権藤さんの股間に顔を埋める妻の姿が浮かびました。
なんとも強烈な光景です。
「そして、なれない様子でしたが、搾り取るように咥えつつ、舌で舐め取ってくれました・・・。」
文字通り妻は清めたわけです。
信じられませんでした。
けれども、あの場の雰囲気で親切心が極まってということも否定できません。
「モゴモゴとぎこちなく口を動かす奥様・・・。奥様の口の中に私の残り汁が入っているのがわかりました。私は不思議な衝動に駆られて、奥様の唇を奪って舌を入れてしまいました。実に変態的な行為です。」
なんと、清めた妻の口の中に・・・。
私は想定外のことに唖然としました。
「私は、奥様の舌に自分の舌を絡みつかせました。奥様はあっけにとられて、私の為すがままそれを受け入れられました・・・。」
『受け入れた』、この一言に、脳髄をハンマーで直接叩かれたような衝撃が走ります。
想定外の行為は、更に、信じられない結果を生むのではないか、つまり、また交わるのではないか・・・と頭に疑念がよぎりました。
もしそうであれば、今度は最初の奉仕としての行為でなく、男女の情事そのものであることは認めざるを得ない・・・。
「奥様と私の舌はザーメンを絡めあってグチャグチャと卑猥な音を立てていました。私は、もう、どうしようもないくらい興奮をしていました。」
私の心拍数は確実に上がっていっていきます。
そんな戸惑いをよそに権藤さんは話しを続けました。
「しかし、唇を離すと、奥様は、『もう、堪忍してください。また、これ以上は・・・。』と困った顔をされました。そこで、私はやっと我に帰ったのです。」
私は、軌道修正をした妻に内心ホッとしました。
「性欲とは恐ろしいものです。最初は、私一人で押さえこまなければならない欲望だったのに、奥様の優しさに付け込んで、あれよ、あれよと、奥様を・・・。もう、弁解の仕様はありません。」
この懺悔の気持ちを伝えるために、あの場所で、彼は私を待っていたのでしょう。
「私は、少し気まずい雰囲気の中、帰り支度をしました。その中で奥様が私にふと尋ねられました。『なぜ、私だったら良かったのですか?』」
確かに、それは気になる事項でした。
なぜ、妻のことを思うとエレクトできるようになったのでしょうか・・・。
「私は、奥様の真摯な視線に正直に答えました。『あなたが亡くなった私の妻に似ていたからです・・・。』」
「私の妻が権藤さんの奥様に似ているのですか?」
「ええ。奥様も同じ質問をされましたよ。『私が権藤さんの奥様に似ているんですか?』と。たしかに、奥様は私の妻に似ていました。容姿も、性格も雰囲気も、全てがそっくりでした。」
妻に権藤さんの奥様の面影を見出したこと、これが、彼を突き動かしていたのでしょう。
彼の不能だったイチモツを甦らせてしまった妻・・・。
全ては、権藤さんと権藤さんの奥様との愛の記憶なのでしょうか。
「だからといって許されるわけではないのは承知しています。ただ、奥様と一緒のときは本当に楽しかった。」
心底嬉しそうな感じが、口調から読み取れます。
「『あなたに会うたび、いつも妻に会えたようで楽しかったですよ。そして、今回のことは、奥様には大変申し訳ないことをしたと思います。でも、妻で、私の中がいっぱいになりました。』」
権藤さんは妻に話した台詞をそのまま私に喋りました。
「『奥様をとても愛してらっしゃったのですね?』と聞かれ、私は沈黙しコクリとうなずきました。」
しばらく、権藤さんは無言になりました。
「私の目が潤んでいるのが自分でもわかりました。そのまま、私達は玄関に行きました。帰り際、奥様は小さな声でおっしゃいました。『また、奥様に会いたい時は、私が奥様になります・・・から。』」
妻が、そんなことを・・・。
「妻が『権藤さんの奥様になる』と言ったのですか?」
「ええ、おっしゃいました。小さな声でしたが・・・。私はどういう意味だろうと考えてしまいました。」
確かに、どういう意味なのでしょうか、肉体関係を許すということなのでしょうか。
「考えた末、奥様に正直に伺いました。」
「正直にですか?」
「ええ、『聞き間違いで無ければ、今、私の妻になるとおっしゃいませんでしたか?奥様にはだんな様がいらっしゃるのに?』と。」
「妻はなんと?」
権藤さんは妻の台詞を繰り返します。
「『ええ、私には夫が居ます。とても愛している夫が居ます。そして、権藤さんもとても愛している奥様がいらっしゃった。でも、亡くなられて、今は居ない。私は、夫を愛することが出来ますが、権藤さんは出来ない。私は夫をとても愛している分だけ、権藤さんの辛いお立場がわかるのです。だから・・・』」
「だから?」
「『権藤さんのお気持ちが少しでも楽になればと・・・』」
「そんなことを?」
「ええ、そうおっしゃって頂けました。」
愛するものがいるから、愛するものが居なくなったものの立場がわかる。
だからこそ、愛するものが居るのにもかかわらず、愛するものが居なくなったものの慰みを引き受ける・・・。
つまり、私を愛しているからこそ、権藤さんの奥様の身代わりになるのだということ・・・。
権藤さんがいたたまれなかったというのはわかります。
けれども、屈曲している論理に、私は、困惑してしまいました。
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携帯を耳に持って行き、真正面に顔を向けると、50メートル先に男性が携帯を持ってこちらに軽く会釈をしているのが見えます。
権藤さんでした・・・。
私達は、また、駅前の喫茶店に入りました。
「私には説明責任があるんじゃないかと思いまして・・・。」
権藤さんは、以前、喫茶店で打ち明けた時よりも、更に緊張した趣で、話し出します。
私は、真実を知っているだけに、何が彼をこうにまで、硬直させているのかは判ります。
もっとも、こちらがすべてを知っているとは、つゆとも思わないでしょう。
そんな情報の優位からか、私は妙に冷静でした。
どんな言葉が続くのか、そう考える余裕さえありました。
「お二人にはなんとお礼を申し上ればいいのか。お陰様で・・・、固さを取り戻すことが出来ました。」
彼は、軽くその場で頭を下げた後、自分の分身が固さを取り戻していく様を、忠実に、私へと説明しはじめました。
「明かりを落としてオレンジ色になった部屋で、私達は、ソファーへと腰掛けました。私は奥様を左にして、どうしようもないくらい心臓がドキドキしていました。」
唇をかすかに震わせながらも、一言々々、言葉を選びながら話を続けます。
「奥様のことを考え、私は、ひざ掛けを掛けました。もちろん、その下では、私はなにも身につけていません。」
権藤さんはコーヒーを一杯口に含むと目を閉じました。
「二人とも、次にどうアクションを起こせばいいのか、どちらが先手をとるのか。互いに固まってしまいました。あれほど、どうしようもないくらい長く感じられた時間はありません。」
彼は、目を閉じたまま、話を続けます。
記憶を引っ張りだすように瞼に写ったあの情景を思い出そうとしているのでしょうか。
「しばらくすると、奥様の指先が私の分身へと触れ、思わず、全身に電気が走りました。奥様の指が柔らかで、少し寄った時に香った奥様の髪の匂いがなんとも言えませんでした。全てが特別でした。」
私は、目を閉じた彼の顔をじっと見つめました。
もし、彼が目を閉じていなければ、視線のやり場に困っていたことでしょう。
彼が目を閉じることによって、互いの顔色を窺わなくてよいのです。
「私の中で何かが沸騰し始めていることに気づきました。もう少しで、求めていたあの感触を取り戻せる予感がしました。そして、ついに、握り締めた奥様の手の中で、分身がズンと天を向いたのです。永らく忘れていた感覚でした。このまま死んでもいいとさえ感じました。」
心持ちか、権藤さんの頬が赤みを帯びているような気がします。
あの情景を思い出して、興奮しているのでしょうか。
「それに続いて、勃起した肉棒を扱かれる感覚・・・。まさか、こんな感覚を再び取り戻せるとはおもいませんでした。奥様は俯きながら視線をそらして扱いてらっしゃいました。扱く動きでは無理があるのでしょう、何度も腰掛がはだけ、その度に、奥様はお戻しになりました。それでも、はだけてしまう。ついには、奥様は掛けるのをおやめになりました。」
あの思い切りのよい献身的な姿は私も忘れられません。
「そこまでされて、献身的に他人のペニスを扱く奥様の姿のいじらしさに私は胸を打たれました。けれども、射精に至らない自分へのジレンマ・・・・。」
そこまで言うと、彼は閉じていた目を開き、またコーヒーを口に含み、下へ視線をやりました。
事実を伝えるつもりなのだ、私はそう察しました。
「実は・・・。」
もちろん、私は、その先の出来事を知っていました。
そして、「全てを知っている」と権藤さんを無碍も無く静止することも出来ました。
しかし、私は、敢えて、それをしませんでした。
償いとして、全てを告白させようという意地の悪い気持ちと、権藤さんの口から語られる情事を聞いてみたいという気持ちが、それを思いとどまらせたのです。
思えば、あの瞬間、止めに入らずに覗いていた心の奥底と関係があるのかもしれません。
「はぁぁ・・・。」
権藤さんは、深いため息をつくと、小さな声で続けました。
「私は・・・奥様を抱いてしまったのです。」
私は、目をそらさず、権藤さんの顔を見つめました。
「奥様の健気な奉仕にも、私は、射精することができず、射精に至らない自分に対する葛藤のようなものを感じました。独りよがりな葛藤です。」
権藤さんは、私から視線をそらすように、再び目を閉じます。
それでも、彼はありのままを言い続けます。
胸のうちを振り絞ります。
「回復した分身に、射精、そして、女体という更に至上の喜びを与えたいという衝動、今そばに居る奥様を抱いてみたいという欲望、全てが入り混じったとき、思わず、『奥様を抱かせてください。』と口にしていました。私は、なんとか奥様を言いくるめようと、必死でした。」
こんな気持ちで、あの場に居たのかと・・・、衝撃的でした。
「優しい奥様は、私の無理な願い事を、旦那様にはもちろん秘密の上、ゴムをつけるという条件と引き換えに、承諾をしてくださいました。悪いのは私です。奥様の優しさに付け込んだのも同然です。」
権藤さんの話は止まりません。
罪悪感からか、全てを告白しなければならないかのように喋り続けます。
「恥ずかしいからと、パンティだけを脱いだ奥様の中に私は挿入しました。奥様の中は、暖かく、私のペニスを優しく包み込みました。まるで、再び、童貞を失ったような気持ちでした。引き抜こうとすると、私のイチモツに奥様が絡み付いて、腰砕けになりそうでした。突き上げる度、服の上からも乳房が揺れるのがわかり、しばらくすると、奥様の頬がうっすらと桃色に染まって、じんわり汗を吹き出していく様子に益々欲情してしまいました・・・。」
「たまらず、私は欲望に任せるまま、奥様の足を担ぎ上げ、己の肉塊を打ち付けました。その時の眉間を寄せた奥様の表情が悩ましく見えたこと・・・。奥様が私にしがみついて、身体が密着し、私は一つになりました。全てが最高でした。」
興奮が極まっていくのでしょう、権藤さんの言葉の一つ一つが次第に力強くなっていきます。
「私は思わず、いい、いいと連発しました。それからは、無我夢中です。射精の感覚が近づいているのがわかりました。久方ぶりの射精です。しかも、奥様というすばらしい方を相手にしての射精。私は幸福感に包まれたまま、絶頂を迎えました。」
すこし間を空けた後、権藤さんはゆっくりと続けました。
「行為の後、奥様は、コンドームを処理してくれました。実にけなげな奥様ですね・・・。そんな奥様を見ているとムラムラとしてきて・・・、射精したペニスを口で清めて下さいますか?と、私は口に出してしまいました。」
まさか、私が立ち去った後にこんなことがあったとは知りませんでした。
私の手がじんわりと汗ばんでいきます。
「口でですか・・・。」
喫茶店に入った時の様な余裕は少なくなり、私は沈黙を破らざるを得ませんでした。
「ええ、口でです。すみません、私は取り乱していたのです。もちろん、奥様は一瞬驚いたような顔をされていました。けれども、優しさからでしょう、ソファーに腰掛けた私のペニスを口に含んでくれました。」
ソファーに腰掛ける権藤さんの股間に顔を埋める妻の姿が浮かびました。
なんとも強烈な光景です。
「そして、なれない様子でしたが、搾り取るように咥えつつ、舌で舐め取ってくれました・・・。」
文字通り妻は清めたわけです。
信じられませんでした。
けれども、あの場の雰囲気で親切心が極まってということも否定できません。
「モゴモゴとぎこちなく口を動かす奥様・・・。奥様の口の中に私の残り汁が入っているのがわかりました。私は不思議な衝動に駆られて、奥様の唇を奪って舌を入れてしまいました。実に変態的な行為です。」
なんと、清めた妻の口の中に・・・。
私は想定外のことに唖然としました。
「私は、奥様の舌に自分の舌を絡みつかせました。奥様はあっけにとられて、私の為すがままそれを受け入れられました・・・。」
『受け入れた』、この一言に、脳髄をハンマーで直接叩かれたような衝撃が走ります。
想定外の行為は、更に、信じられない結果を生むのではないか、つまり、また交わるのではないか・・・と頭に疑念がよぎりました。
もしそうであれば、今度は最初の奉仕としての行為でなく、男女の情事そのものであることは認めざるを得ない・・・。
「奥様と私の舌はザーメンを絡めあってグチャグチャと卑猥な音を立てていました。私は、もう、どうしようもないくらい興奮をしていました。」
私の心拍数は確実に上がっていっていきます。
そんな戸惑いをよそに権藤さんは話しを続けました。
「しかし、唇を離すと、奥様は、『もう、堪忍してください。また、これ以上は・・・。』と困った顔をされました。そこで、私はやっと我に帰ったのです。」
私は、軌道修正をした妻に内心ホッとしました。
「性欲とは恐ろしいものです。最初は、私一人で押さえこまなければならない欲望だったのに、奥様の優しさに付け込んで、あれよ、あれよと、奥様を・・・。もう、弁解の仕様はありません。」
この懺悔の気持ちを伝えるために、あの場所で、彼は私を待っていたのでしょう。
「私は、少し気まずい雰囲気の中、帰り支度をしました。その中で奥様が私にふと尋ねられました。『なぜ、私だったら良かったのですか?』」
確かに、それは気になる事項でした。
なぜ、妻のことを思うとエレクトできるようになったのでしょうか・・・。
「私は、奥様の真摯な視線に正直に答えました。『あなたが亡くなった私の妻に似ていたからです・・・。』」
「私の妻が権藤さんの奥様に似ているのですか?」
「ええ。奥様も同じ質問をされましたよ。『私が権藤さんの奥様に似ているんですか?』と。たしかに、奥様は私の妻に似ていました。容姿も、性格も雰囲気も、全てがそっくりでした。」
妻に権藤さんの奥様の面影を見出したこと、これが、彼を突き動かしていたのでしょう。
彼の不能だったイチモツを甦らせてしまった妻・・・。
全ては、権藤さんと権藤さんの奥様との愛の記憶なのでしょうか。
「だからといって許されるわけではないのは承知しています。ただ、奥様と一緒のときは本当に楽しかった。」
心底嬉しそうな感じが、口調から読み取れます。
「『あなたに会うたび、いつも妻に会えたようで楽しかったですよ。そして、今回のことは、奥様には大変申し訳ないことをしたと思います。でも、妻で、私の中がいっぱいになりました。』」
権藤さんは妻に話した台詞をそのまま私に喋りました。
「『奥様をとても愛してらっしゃったのですね?』と聞かれ、私は沈黙しコクリとうなずきました。」
しばらく、権藤さんは無言になりました。
「私の目が潤んでいるのが自分でもわかりました。そのまま、私達は玄関に行きました。帰り際、奥様は小さな声でおっしゃいました。『また、奥様に会いたい時は、私が奥様になります・・・から。』」
妻が、そんなことを・・・。
「妻が『権藤さんの奥様になる』と言ったのですか?」
「ええ、おっしゃいました。小さな声でしたが・・・。私はどういう意味だろうと考えてしまいました。」
確かに、どういう意味なのでしょうか、肉体関係を許すということなのでしょうか。
「考えた末、奥様に正直に伺いました。」
「正直にですか?」
「ええ、『聞き間違いで無ければ、今、私の妻になるとおっしゃいませんでしたか?奥様にはだんな様がいらっしゃるのに?』と。」
「妻はなんと?」
権藤さんは妻の台詞を繰り返します。
「『ええ、私には夫が居ます。とても愛している夫が居ます。そして、権藤さんもとても愛している奥様がいらっしゃった。でも、亡くなられて、今は居ない。私は、夫を愛することが出来ますが、権藤さんは出来ない。私は夫をとても愛している分だけ、権藤さんの辛いお立場がわかるのです。だから・・・』」
「だから?」
「『権藤さんのお気持ちが少しでも楽になればと・・・』」
「そんなことを?」
「ええ、そうおっしゃって頂けました。」
愛するものがいるから、愛するものが居なくなったものの立場がわかる。
だからこそ、愛するものが居るのにもかかわらず、愛するものが居なくなったものの慰みを引き受ける・・・。
つまり、私を愛しているからこそ、権藤さんの奥様の身代わりになるのだということ・・・。
権藤さんがいたたまれなかったというのはわかります。
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