とんかつ屋に通ってたら人生が変わった
大学に進学した時、俺は地方出身だったから東京で一人暮らしを始めたんだ。
当時は東京の電車の煩雑さにも恐れを抱いていたため大学の最寄り駅に部屋を借りた。
勿論貧乏だったから三畳一間だ。
文学少年だったおれは、なぜか大学も行かず家で小説ばっか読んでたんだww
一人暮らしによくあるパターンだな。
そんな墜ちきった俺でも、唯一週間にしてたことがあったんだ。
それがスレタイにあるように、毎日夜にトンカツ屋に行くこと。
商店街の精肉店がやってる店で、そりゃあもう安い値段だった。
料理もできない貧乏な俺は、そこで毎日、ソースカツ丼の大盛と無料のキャベツの大盛りの一食だけで餓えを凌いでた。
毎日、昼頃に起きて文豪の書いた小説を読み耽り、腹が減ったらそのトンカツ屋に行き、朝までまだ読み耽るという、カスな大学生にしか出来ない自堕落な生活をしていた。
体質なのかわからんが、いくら食っても太らないんだ。
しかも大食いだったから食費の心配がかなりあった。
でも、金がなくてキャベツだけの日とかもあった。
半月ぐらい通ってたある日、店で一人の女の子が声を掛けてきたんだ。
「太宰治、好きなんですか?」と。
その女の子は家族で営んでる精肉店の娘で、週何回か手伝いをしてた。
正直、かなりの美人で、よく常連客のおっさん共がちょっかい出してた。
ちなみにボッチ常連の俺はボッチ相応に女性と話すのも苦手だったわけで、
美人だなー、と思いつつも横目で見るというような気持ちの悪い行為に勤しんでいた。
で、話し掛けられた時、俺は太宰治の斜陽を読んでいた。
「え…ぁ……ええ、はい」とキョドりぶりを発揮し、終わった、と思った。
だけれど女の子は俺が肯定した時、顔を笑顔でいっぱいにし
「そうなんですか!私も太宰大好きなんです!」と言った。
「どんな……どんな作品が好きなんですか?」
「全集を一通り読みましたけれど、一回りして人間失格が一番好きなんです。」
「皆、共感できると人気ですよね」
「そう!駄目具合がもう私とそっくりでww……あ、ごめんなさい」
その時の酔ったおっさんどもの罵声は今でもよく覚えている。
それから、少女は度々話し掛けてくれるようになった。
太宰は自殺してから女に縄で入水してくれるよう頼んだんだ。
彼は相当のナルシストだったから、ぶくぶくに膨れた惨めな姿を見せたくなかったんだよね。
という自慢にもならない太宰に対する持論を、少女は目を輝かせて聞いてくれたりもした。
少女の経歴を聞くと、今は高校生で大学は、俺の行く大学を目指してるとのこと、
一方俺は、大学をサボり続けていて、留年が早々に確定していた頃合いだった。
いよいよ、俺の素性が気になったのか、ついにあのことばを聞かれてしまった。
「お兄さん、何をしている人なの」
「カツ丼食べながら小説を読む人だよ」
「もう!そういうことを聞いてるんじゃないわ」
「んーー?」
「お仕事よ、お仕事」
「んーーー。」
「話さないと出禁にする」
「わかった、わかった。………○○大学だよ。」
「!!、なんで言ってくれなかったの」
「……サボってるから…かな。」
ついに言ってしまった。
「そう」と少女は無機質な声で返事した。
「うん」
「そっか」
その日はこれ以上居られないと思い、勘定を済ませた。
それからしばらくの間、俺は、そのトンカツ屋に行くのを控えてたんだ。
というより、なんだか行くことができなかった。
慣れない料理をする気にもなれず、毎日レトルトのカレーとパンの耳というアンバランスな食品で生き長らえてた。
それを1ヶ月続けた当たりで、限界をついに感じ、その少女が手伝ってない日を狙って、トンカツ屋に出向いた。
実に1ヶ月ぶりのカツ丼、マジで美味い。マジで安い。
それから、行きだしたんだが、どうも少女が来る気配がない。
もちろん、精肉店と家は繋がっているので、ちょこちょこ顔を出すはずなんだ。
再び通いはじめて、その数字が二桁になる頃、ようやく少女が現れた。
「あ、やっときた」
「お…おう」
「餓死しているのじゃないかと心配してたんだから」
「耳食ってた」
「ミミ?誰の?」
「いや、なんでもない」
「変な人。そんな変な人に朗報があるよ」
「なんだ」
「お兄ちゃんの大学無事合格して、春から通わせて頂くことになりました」
なんと、気付いたら受験シーズンも終わってたらしい。
小説の魔力とは恐ろしい。
「よく受かったな。偏差値全然足りてなかったじゃないか」
「あれから猛勉強して、特待生になったの」
「」
恐ろしい子っ
「だから、春から家まで毎日朝起こしに行く。」
「おいおいマジかよ……」
「マジ。大マジ。」
春になった。
相変わらず俺は自堕落な生活を送ってたわけで、春から大学に行く気などさらさらなかった。
だが、外から声が聞こえた
「お兄ちゃーーん、朝だよ!!!早く準備して!!!!」
その日から俺は、無理矢理大学に行かされるようになった。
勿論、少女と同じ学年、同じ学部だ。
少女は、俺が小説を読もうとすると、その小説を俺から奪い上げ「貴方が読むのはこれ」と教科書を顔に押し付けてきた。
それから、嫌嫌ながらも大学に通い、無事進級を果たして、俺の怠け癖も治っていった。
大学三年のある日、少女が突然こんなことを言った。
「なんか言うことないの?」と。
「んー強いて言うなら、付き合ってくれ、ってことぐらいかな」
こんな取留めのない会話から、少女が彼女に変わった。
んで、そこから無事交際も進め、卒業し、そこの町に近い企業に就職した。
彼女は、周りの友達が就職活動に勤しんでるのに対して、そのような活動は一切してなかった。
「就職活動しなくていいのか」
「今付き合ってる人が籍入れよう、って五月蝿いから」
「いつ言ったっけ」
「一年前先くらい」
「阿呆」
「いいじゃん、私も最初の貴方の頃のような生活がしたいの!!」
「まあ、退職するのに就職活動するのも面倒だよな」
「そそ」
そんな、バカみたいな会話通りにことが進み
大学卒業すると同時に結婚し、今じゃ立派に尻に敷かれてます。
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当時は東京の電車の煩雑さにも恐れを抱いていたため大学の最寄り駅に部屋を借りた。
勿論貧乏だったから三畳一間だ。
文学少年だったおれは、なぜか大学も行かず家で小説ばっか読んでたんだww
一人暮らしによくあるパターンだな。
そんな墜ちきった俺でも、唯一週間にしてたことがあったんだ。
それがスレタイにあるように、毎日夜にトンカツ屋に行くこと。
商店街の精肉店がやってる店で、そりゃあもう安い値段だった。
料理もできない貧乏な俺は、そこで毎日、ソースカツ丼の大盛と無料のキャベツの大盛りの一食だけで餓えを凌いでた。
毎日、昼頃に起きて文豪の書いた小説を読み耽り、腹が減ったらそのトンカツ屋に行き、朝までまだ読み耽るという、カスな大学生にしか出来ない自堕落な生活をしていた。
体質なのかわからんが、いくら食っても太らないんだ。
しかも大食いだったから食費の心配がかなりあった。
でも、金がなくてキャベツだけの日とかもあった。
半月ぐらい通ってたある日、店で一人の女の子が声を掛けてきたんだ。
「太宰治、好きなんですか?」と。
その女の子は家族で営んでる精肉店の娘で、週何回か手伝いをしてた。
正直、かなりの美人で、よく常連客のおっさん共がちょっかい出してた。
ちなみにボッチ常連の俺はボッチ相応に女性と話すのも苦手だったわけで、
美人だなー、と思いつつも横目で見るというような気持ちの悪い行為に勤しんでいた。
で、話し掛けられた時、俺は太宰治の斜陽を読んでいた。
「え…ぁ……ええ、はい」とキョドりぶりを発揮し、終わった、と思った。
だけれど女の子は俺が肯定した時、顔を笑顔でいっぱいにし
「そうなんですか!私も太宰大好きなんです!」と言った。
「どんな……どんな作品が好きなんですか?」
「全集を一通り読みましたけれど、一回りして人間失格が一番好きなんです。」
「皆、共感できると人気ですよね」
「そう!駄目具合がもう私とそっくりでww……あ、ごめんなさい」
その時の酔ったおっさんどもの罵声は今でもよく覚えている。
それから、少女は度々話し掛けてくれるようになった。
太宰は自殺してから女に縄で入水してくれるよう頼んだんだ。
彼は相当のナルシストだったから、ぶくぶくに膨れた惨めな姿を見せたくなかったんだよね。
という自慢にもならない太宰に対する持論を、少女は目を輝かせて聞いてくれたりもした。
少女の経歴を聞くと、今は高校生で大学は、俺の行く大学を目指してるとのこと、
一方俺は、大学をサボり続けていて、留年が早々に確定していた頃合いだった。
いよいよ、俺の素性が気になったのか、ついにあのことばを聞かれてしまった。
「お兄さん、何をしている人なの」
「カツ丼食べながら小説を読む人だよ」
「もう!そういうことを聞いてるんじゃないわ」
「んーー?」
「お仕事よ、お仕事」
「んーーー。」
「話さないと出禁にする」
「わかった、わかった。………○○大学だよ。」
「!!、なんで言ってくれなかったの」
「……サボってるから…かな。」
ついに言ってしまった。
「そう」と少女は無機質な声で返事した。
「うん」
「そっか」
その日はこれ以上居られないと思い、勘定を済ませた。
それからしばらくの間、俺は、そのトンカツ屋に行くのを控えてたんだ。
というより、なんだか行くことができなかった。
慣れない料理をする気にもなれず、毎日レトルトのカレーとパンの耳というアンバランスな食品で生き長らえてた。
それを1ヶ月続けた当たりで、限界をついに感じ、その少女が手伝ってない日を狙って、トンカツ屋に出向いた。
実に1ヶ月ぶりのカツ丼、マジで美味い。マジで安い。
それから、行きだしたんだが、どうも少女が来る気配がない。
もちろん、精肉店と家は繋がっているので、ちょこちょこ顔を出すはずなんだ。
再び通いはじめて、その数字が二桁になる頃、ようやく少女が現れた。
「あ、やっときた」
「お…おう」
「餓死しているのじゃないかと心配してたんだから」
「耳食ってた」
「ミミ?誰の?」
「いや、なんでもない」
「変な人。そんな変な人に朗報があるよ」
「なんだ」
「お兄ちゃんの大学無事合格して、春から通わせて頂くことになりました」
なんと、気付いたら受験シーズンも終わってたらしい。
小説の魔力とは恐ろしい。
「よく受かったな。偏差値全然足りてなかったじゃないか」
「あれから猛勉強して、特待生になったの」
「」
恐ろしい子っ
「だから、春から家まで毎日朝起こしに行く。」
「おいおいマジかよ……」
「マジ。大マジ。」
春になった。
相変わらず俺は自堕落な生活を送ってたわけで、春から大学に行く気などさらさらなかった。
だが、外から声が聞こえた
「お兄ちゃーーん、朝だよ!!!早く準備して!!!!」
その日から俺は、無理矢理大学に行かされるようになった。
勿論、少女と同じ学年、同じ学部だ。
少女は、俺が小説を読もうとすると、その小説を俺から奪い上げ「貴方が読むのはこれ」と教科書を顔に押し付けてきた。
それから、嫌嫌ながらも大学に通い、無事進級を果たして、俺の怠け癖も治っていった。
大学三年のある日、少女が突然こんなことを言った。
「なんか言うことないの?」と。
「んー強いて言うなら、付き合ってくれ、ってことぐらいかな」
こんな取留めのない会話から、少女が彼女に変わった。
んで、そこから無事交際も進め、卒業し、そこの町に近い企業に就職した。
彼女は、周りの友達が就職活動に勤しんでるのに対して、そのような活動は一切してなかった。
「就職活動しなくていいのか」
「今付き合ってる人が籍入れよう、って五月蝿いから」
「いつ言ったっけ」
「一年前先くらい」
「阿呆」
「いいじゃん、私も最初の貴方の頃のような生活がしたいの!!」
「まあ、退職するのに就職活動するのも面倒だよな」
「そそ」
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