大工見習のガテン系な女の子の処女をもらい結婚した話
結婚後も同居していた9歳年上の兄が家を立てることになった。
当時大学生だった俺はおふくろの命令で建築現場に飲み物やら茶菓子やらを差し入れするはめに。
そこでの会話。
俺「ドリンク持ってきました。どうぞ休憩にして下さい。」
職人さん「お、兄ちゃんいつもすまないね。」
そしたらやけにちんまくてタオル被った男の子が
「ダイエットコークないの?」
俺「ないんですよ。普通のコーラじゃ駄目ですか?」
男の子(?)「甘いもんばてるから嫌い。次からダイエットコーク買ってきてよ。」
生意気なクソガキだなー、苦手だと思ってたのが嫁になるとは思わなかったです。
妻と初めてした会話から誘導されて来ました。
兄が俺も憧れていた幼馴染と結婚してしばらくは実家に同居していた。
控えめにしてたのだろうと思うのだがギシアンが隣の部屋の俺には丸聞こえで、毎日悶々としていたところ、親が半分金を出して近所に新居を経てることになった。
大学生と言っても毎日だらだら過ごしているだけだし、現場が駅に向かう途中にあったので、職人さんへの差し入れは必然的に俺の役目になった。
嫁は棟梁の娘で、親父さんの手伝いをしていたのだが、ガングロとかじゃなく土方焼けにタオルを被った作業服姿で、しかも他の職人から「シゲ(仮称)!ボード持ってきて!」なんて呼ばれていたので、俺はてっきり見習いの使い走りかなにかだと思っていた。
ダイエットコーク買って来いなんて随分生意気な奴だなと思ったけれど、出来るだけ波風立てないように生きていくのが信条なので、次からは必ずダイエットコークを混ぜて持っていくようになった。
ジュースだけじゃなくて、おふくろが漬けたお新香やら煮物も持っていってたので、翌日の差し入れのためにタッパを回収するのも俺の仕事で、毎回職人さん達が一服終わるまで、ぬぼーっと現場の隅で本読んだりしていた。
ある日、シゲが何思ったんだか寄って来て、
「何読んでんの?面白い?」
と尋ねてきた。
「『集合と位相空間』。面白くはないよ、教科書だし。」
そう答えると何だか変なツボに入ったらしくてゲラゲラ笑い出した。
「何?学校じゃないのに教科書読んでんの?そんな勉強ばっかしててアホにならない?」
失敬な奴だなと思いつつも、読んでおかないと講義についていけない旨を伝えた。
「ふーん。授業聞いてるだけじゃ駄目なん?」
「駄目。自分でも頑張らないと。」
シゲは全然納得してない様子でコーラ片手に作業に戻っていった。
翌日以降も何だかちょろちょろまとわりつかれて、大学は楽しいかとか、勉強面白いかなんてことばかり聞いては、ふーんとした顔で聞いていた。
そんな小難しい本ばかり読んでたら頭おかしくなるからこれ読みなって差し出される。何だかそこらのおっさんが読むようなゴラクとかアクションとかの漫画を丁重に断ってキレられたりしながら、何だかちょっとづつ仲良くなっていった。
夏場でかんかん照りなのでシゲにだけアイス買っていって、
「しょうがねーなー、シゲまだガキンチョだからアイスかよ。」
「腹壊してうんこもらすなよ。ゲラゲラゲラ。」
明らかに他の職人とは一回り近く下だし、可愛がられてっぽかった。
でも扱いはかなりぞんざいだったので俺はシゲがなりの小さい男だと思っていた。
「あのさー、あたし大学行って建築勉強したいんだよね。」
ガリガリ君食べながら唐突に言われた。
「大工も仕事減ってるしさ。設計から請け負った方が稼げるんじゃないかなって思うんだけど。」
大いに偏見を持っていたのは失礼極まりないないのだが、シゲの口からこんな言葉が出てきたことにびっくりした。
それ以上に一人称があたしだったのに驚いた。
「あたしって・・・シゲっておかまなの?」
的外れな受け答えに、
「ばっか!あたしこれでも女だよ!」
男であることに微塵も疑いを持っていなかったので腹にパンチ入れられても痛くないくらいだった。
「見ろ、ボケチン。」
タオル外すとピンでまとめた長い髪が現れた。
「ロンゲの兄貴ってわけじゃ・・・ないんだよね・・・?」
「女だっつってんだろ!釘打ち機で穴空けんぞ、コラ!」
この言葉遣いで女だって信じろって方が無理だ。
その時はそう思った。
「建築科か。頑張ればいけるんじゃないの?」
所詮他人事だし、適当に答えると、
「あー、あたし高校中退なんだよね。大学はムリっしょ。」
高校中退?
俺的には有り得ない世界だったのでドン引きして、
「そうだな。中退じゃ難しいかな。」
とお茶を濁してやりすごそうとした。
「そこを何とかなんないかね?」
「何とかって言っても何ともならないんじゃないの?」
「そっかー。」
シゲはしょんぼりして足で地面を蹴っ飛ばし始めた。
あまりのしょげっぷりにちょっと気の毒になった。
「そうだ!大検!大検受かれば中退でも大学入れるよ!」
咄嗟に思いついて口にした途端シゲが顔を上げて俺をじっと見つめた。
「マジで!?」
「うん。マジで。」
「すごいじゃん!なんか嬉しい!」
ここからシゲと俺の受験戦争が始まるとは夢にも思わなかった。
「でさ、お父ちゃんに大学行きたいって話してくんないかな?」
何で俺がそんな面倒臭いことしなければならないのかわからず躊躇していると、
「やっぱ大学の大事さって大学生に言ってもらうのが一番効くと思うんだよね、うん。決まり。」
シゲにずんずん手を引っ張られて弁当を食っている棟梁の所に行った。
「お父ちゃん、この人からちょっと話があるんだけど。」
別に俺から進んでする話はない。
まごまごしていると、
「なんだなんだ。彼氏様のプロポーズか。ガハハハハ。」
この娘にしてこの親あり。
冗談きつ過ぎて眩暈がした。
「ばっか。ふざけんな。そういうチャラい話じゃないよ!」
怒るシゲに尻をバシバシ叩かれて早く言えの催促。
仕方が無いので口を開いた。
「えーっとですね。シゲさんがですね。大学に行きたいので大検を受けたいって言ってるんですが、お父さんにお許し願いたいと交渉を頼まれまして。」
棟梁はきょとんとしてた。
「大検てなんだい?」
「事情があって高校卒業出来なかった人でもこの試験に合格すると大学受験出来るようになるんです。」
かいつまんで説明する。
途端に、
「無理だろー。シゲ根性ないもん。高校1年で辞めちゃうし。無駄無駄。第一お前勉強嫌いだろ。大学行って何すんだ?」
豪快に笑い飛ばされたシゲをそっと除き見ると、うつむいて泣きそうになっていた。
「あのですね。シゲさん、大学で建築の勉強したいそうなんです。建築士の資格取りたいって。」
喋れなさそうなくらい小さくなっちゃっていたので、俺が何とかシゲの代弁をした。
「設計とか出来るようになってお父さんの仕事手伝いたいそうです。」
途端に棟梁の顔色が変わった。
「そんなんはいいんだよ。大工は腕一本で食ってくんだから。ガキの手伝いなんかいるかってんだ!。シゲも御託並べる前にまず叩き大工卒業しろ。」
交渉決裂。
「一生懸命言ってくれたのにごめんね。」
シゲに謝られた。
二人で黙ったまま職人さんの飲み終わったペットボトルやらタッパを集めて回って帰宅した。
次の日、差し入れを持っていくと現場にシゲはいなかった。
「ちょっといいかい。」
飲みものだけ置いて帰ろうとすると棟梁に呼び止められた。
「昨日の話なんだけどさ。うちのガキでも大検っていうの受かるもんなのかね。」
当時俺も20そこそこで親心なんてわからなかったので棟梁の言葉を計り兼ねた。
「勉強すれば何とかなるんじゃないんですかね。」
「やっぱり兄ちゃんは塾行ったりして大学行ったんだろ?」
「はぁ。予備校行きましたけど。」
それを聞いた棟梁が腕組みして大きく溜息をついた。
「問題はそこなんだよな。シゲ人見知り激しいんだよ。高校も続かなかったしな。懐いてんの兄ちゃんくらいだわ。」
そういうもんなのか?全然そうは見えなかったけれど。
そう考えていると、
「物は相談なんだけどさ。兄ちゃんシゲに勉強教えてやってくれねーかな?勿論ただとは言わねーから。頼むよ。」
棟梁体ごっついし、片手に丸ノコ持ってるし、断ったらヤバゲな感じがしたので二つ返事でOKした。
その日の翌々日からシゲが勉強をしに家に通ってくることになった。
俺も学校があるので週3回、午後5時から10時まで。
それまで通っていた家庭教師のバイトは暇をもらった。
高1で中退したと聞いていたので失礼ながら相当頭悪いのかと思っていたら、これが中々理解力もあるし、レベルの高い例題もすんなりこなしていくのでびっくりした。
「何だ。シゲ勉強出来るじゃん。」
「だって辞めてからも勉強してたもん。」
とつとつと話し始めたのを聞くとシゲは勉強は嫌いじゃない、むしろ好きらしい。
「じゃあ、学校辞めなきゃよかったじゃん。」
言った途端、シゲの顔が急に曇った。
「うっさいな。色々あんだよ。」
この時は知る由もなかったがシゲが退学した原因は後々知ることになる。
大検用テキスト3周終わって、何とか目処がつき始めたので英語のリスニング問題に取り掛かった。
いつもダイニングの対面に座って教えていたのだけれど、リスニングの時だけは椅子をちょっとずらしてテーブルの上のデッキに右耳を近づけるようにして聞いていた。
「お前まっすぐ座って聞きなよ。姿勢悪いとカンニング疑われるよ?」
格好が面白くって思わず笑いながら言うとシゲがあっけらかんと答えた。
「言ってなかったっけ?私左耳聞こえないんだよ。
学校でビンタされて鼓膜破れちゃってさ。医者行かなかったんで駄目んなっちゃった。」
「ちょっ、馬鹿。医者行けよ。鼓膜くらい直んだろ。」
「そんなことしたら親に心配かけんだろ。わかってねーなー、もう。」
「ごめん・・・」
謝るしかなかった。
シゲも死に物狂いで勉強したので、余裕とまではいかなかったけれど大検はクリアした。
本人も飛び上がっていたが親父さんが男泣きするくらい喜んでいた。
でもこれは通過点に過ぎない。
本人がどうせ取るなら二級じゃなく一級建築士だと言い張るので、実務経験が少なくて済み、かつ技術的に高度なことが学べる学校を探して受験した。
結果、不合格。
「やっぱバカはバカなんだ。何やってもバカはダメなんだ。」
とオイオイ泣くので、
「俺だって一浪だし何とかなるよ。」
と根拠のない慰めでもう一度トライ。
自分の卒論落としかけてまでシゲの受験勉強に没頭した。
2年以上みっちり一緒にいて危ない橋を渡っていると、不思議なものでつり橋効果のせいかお互い何だか好きかも知れないと思い始めて、ふざけてキスしたりしていたある日、
「悠(俺の仮名)って童貞?」
「何言ってんの!?違うよ!」
「えー、何か童貞くさい。」
「うっせ、セックスくらいしたことあるって。」
「本当?」
「2回ある!」
変なツボに入ったらしくてゲラゲラ笑い出すシゲ。
「全然手出してこないから童貞だと思ってた。でも2回って・・・2回って・・・ゲラゲラゲラゲラ。」
いたく自尊心を傷つけられて言い返す。
「バカシゲ。どうせ俺はお前みたいなビッチと違って限りなくピュアに近いです。ヤリマンは巣に帰れ!帰って犬とでもやってろ!」
「てめ、ヤリマンとか言うな!あたし男となんてしたことないよ!死ね!なんちゃって童貞!」
母親にふざけてないで勉強しろと怒られたが、毎回こんな調子で半分勉強、半分おしゃべりで1年が過ぎていった。
1年後「どうせダメ。落ちてるに決まってるし。」
としり込みするシゲを連れて親父さんと一緒に合格発表を何回も見に行った。
ランクを落とすよりは上げて失敗した方がいいというシゲの男っぷりで駄目元で受けたところだけ合格していた。
「大金星だなぁ」
と親父さんはオイオイ咽び泣く。
シゲは狐につままれたようにきょとんとして、
「悠、ほっぺたぶって。」
と言うので思いっきりビンタしたら、
「何すんだ、この野郎!」
とキレられ三倍返しされた。
何にせよめでたいシゲの門出だった。
寿司屋で祝杯を上げた後、親父さんはへろへろになっちゃってシゲのおふくろさんに抱えられて帰っていった。
取り残された俺とシゲ。
「どうする?もうちょっと飲む?」
「お酒もういいや。少し歩きたい。」
半ば千鳥足で二人して笑いながら月の下を歩いた。
「あのさー、悠に何かお礼しなきゃまずくね?」
「いいよ、別に。兄ちゃん家の窓ただで二重サッシにしてもらったし。」
「そういうんじゃなくってさー。もうちょっと何かさー。」
「じゃあシゲが建築士になったら俺の家設計してよ。何年先になるかわかんないけどさ。」
「しょーがねーなー。設計料50%オフでやってやっか。」
夢に溢れたシゲの顔を見ているのがとても楽しかった。
俺は俺で教員採用試験に落ちて凹んでた最中だったので尚更だった。
気がつくとホテル街に差し掛かっていた。
「ここってさ。みんなHするために来てんだよね?」
「そりゃそうだろ。そういうとこだもん。」
「何か変な感じ。」
「行きなれてそうなお前が言うほうが変な感じだって。」
「したことないって言ったろ!忘れたん!?」
「そうだったそうだった。ビッチシゲはまだ処女だった。」
茶化しながら通り過ぎようとすると、
「よくさ、休んで行こうかとか言うって言うじゃん。でも実際は運動するんじゃないの?」
面白いこと言うなと思った。
数えるくらいしか経験ないけど確かに休憩じゃなくて運動だ。
ふざけ半分で、
「何なら俺と運動してくか?」
ご機嫌で歩いてふと横を見るとシゲがいない。
振り向くと10mくらい後ろで下を向いてたたずんでた。
「ごめん。ごめん。嘘だって。」
好きと言ってもシゲは女というより男友達みたいなもんだったので冗談が過ぎたかなと後悔した。
そうしたら、
「いいよ・・・」
「は?」
「悠とだったらいい。」
さっきまでとは打って変わったシリアスな雰囲気に気おされて、
「運動って言ってもラジオ体操とかじゃないよ?」
とボケをかますも、
「そんなんわかってるよ!黙って連れてけ!」
シゲ主導でホテルに入った。
「STAY13000円だって。悠お金持ってる?」
「ちょっと待って、やべ、俺10000円しか持ってない。帰ろう。」
「大丈夫あたし6000円持ってる。足りるじゃん。」
フロントパネルの前で間抜けな会話をしてたら後からきたカップルにくすくす笑われた。
システムがよくわからなくてまごまごしながらエレベーターに乗ってなんとか部屋にたどり着く。
いきなり鳴る電話に二人してびびったり、エログッズカタログ見て笑ったり中々事には及ばなかった。
別々に風呂に入ってカラオケして飽きてきた頃シゲがボソっと言った。
「あのさ。あたし男の人としたことないって言ったじゃん。」
「うん。処女なんだろ?冗談抜きで。」
「そうなんだけどさ。悠としても血出ないかもしんないの。」
「へ?」
何言ってるのか全然わからなかった。
処女なら出血するもんじゃないのか?
経験値低いから知識不足なのか?
「あのね。高校のときあたしいじめにあっててさ、無理矢理ボールペン入れられちゃったんだ・・・」
「・・・・・・・」
「こんな相手じゃ嫌だよね?」
そっか。
シゲが学校やめたのも肩耳聞こえないのもいじめられてたせいなのか。
その時全てのピースがつながった。
「ばっかだなー。そんなのノーカンみたいなもんだろ。シゲはまだ処女だよ。」
泣き出しそうなシゲをくすぐり攻撃して無理矢理笑わせて服を脱がせた。
「仏の顔も三度までって言うじゃん。俺も2回しかしてないからギリ童貞ね。」
全然ロマンチックな初体験じゃなくて悪かったんだけれど、シゲの初めては俺が貰った。
心配していた出血もちゃんとあった。
翌朝シゲを送っていって親父さんに怒られるかと思ってたら、
「なんだい。おまえらようやくかい。」
とあっさり言われて拍子抜けした。
その後、俺は教職に見切りをつけ、シゲの実家を手伝いながら建築の専門学校に入りなおした。
全く畑違いの分野なので戸惑うことも多かったが、シゲと一緒に現場に出たり実習計画練ったりするのは今までにない充足感が得られた。
実家からの通いで勤務してたのだが、親父さんの、
「おまえうちに住んじゃえよ。どうせシゲと結婚すんだろ。」
の一言で何となく結婚が決まり、あれよあれよという間にシゲと連名で建築事務所を構えることになった。
受験勉強していた頃の約束通り自宅はシゲの設計だ。
相変わらず口は悪いが配偶者としても仕事上でもシゲは最良のパートナーだと思っている。
ダイエットコークに乾杯。
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エッチな体験談
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当時大学生だった俺はおふくろの命令で建築現場に飲み物やら茶菓子やらを差し入れするはめに。
そこでの会話。
俺「ドリンク持ってきました。どうぞ休憩にして下さい。」
職人さん「お、兄ちゃんいつもすまないね。」
そしたらやけにちんまくてタオル被った男の子が
「ダイエットコークないの?」
俺「ないんですよ。普通のコーラじゃ駄目ですか?」
男の子(?)「甘いもんばてるから嫌い。次からダイエットコーク買ってきてよ。」
生意気なクソガキだなー、苦手だと思ってたのが嫁になるとは思わなかったです。
妻と初めてした会話から誘導されて来ました。
兄が俺も憧れていた幼馴染と結婚してしばらくは実家に同居していた。
控えめにしてたのだろうと思うのだがギシアンが隣の部屋の俺には丸聞こえで、毎日悶々としていたところ、親が半分金を出して近所に新居を経てることになった。
大学生と言っても毎日だらだら過ごしているだけだし、現場が駅に向かう途中にあったので、職人さんへの差し入れは必然的に俺の役目になった。
嫁は棟梁の娘で、親父さんの手伝いをしていたのだが、ガングロとかじゃなく土方焼けにタオルを被った作業服姿で、しかも他の職人から「シゲ(仮称)!ボード持ってきて!」なんて呼ばれていたので、俺はてっきり見習いの使い走りかなにかだと思っていた。
ダイエットコーク買って来いなんて随分生意気な奴だなと思ったけれど、出来るだけ波風立てないように生きていくのが信条なので、次からは必ずダイエットコークを混ぜて持っていくようになった。
ジュースだけじゃなくて、おふくろが漬けたお新香やら煮物も持っていってたので、翌日の差し入れのためにタッパを回収するのも俺の仕事で、毎回職人さん達が一服終わるまで、ぬぼーっと現場の隅で本読んだりしていた。
ある日、シゲが何思ったんだか寄って来て、
「何読んでんの?面白い?」
と尋ねてきた。
「『集合と位相空間』。面白くはないよ、教科書だし。」
そう答えると何だか変なツボに入ったらしくてゲラゲラ笑い出した。
「何?学校じゃないのに教科書読んでんの?そんな勉強ばっかしててアホにならない?」
失敬な奴だなと思いつつも、読んでおかないと講義についていけない旨を伝えた。
「ふーん。授業聞いてるだけじゃ駄目なん?」
「駄目。自分でも頑張らないと。」
シゲは全然納得してない様子でコーラ片手に作業に戻っていった。
翌日以降も何だかちょろちょろまとわりつかれて、大学は楽しいかとか、勉強面白いかなんてことばかり聞いては、ふーんとした顔で聞いていた。
そんな小難しい本ばかり読んでたら頭おかしくなるからこれ読みなって差し出される。何だかそこらのおっさんが読むようなゴラクとかアクションとかの漫画を丁重に断ってキレられたりしながら、何だかちょっとづつ仲良くなっていった。
夏場でかんかん照りなのでシゲにだけアイス買っていって、
「しょうがねーなー、シゲまだガキンチョだからアイスかよ。」
「腹壊してうんこもらすなよ。ゲラゲラゲラ。」
明らかに他の職人とは一回り近く下だし、可愛がられてっぽかった。
でも扱いはかなりぞんざいだったので俺はシゲがなりの小さい男だと思っていた。
「あのさー、あたし大学行って建築勉強したいんだよね。」
ガリガリ君食べながら唐突に言われた。
「大工も仕事減ってるしさ。設計から請け負った方が稼げるんじゃないかなって思うんだけど。」
大いに偏見を持っていたのは失礼極まりないないのだが、シゲの口からこんな言葉が出てきたことにびっくりした。
それ以上に一人称があたしだったのに驚いた。
「あたしって・・・シゲっておかまなの?」
的外れな受け答えに、
「ばっか!あたしこれでも女だよ!」
男であることに微塵も疑いを持っていなかったので腹にパンチ入れられても痛くないくらいだった。
「見ろ、ボケチン。」
タオル外すとピンでまとめた長い髪が現れた。
「ロンゲの兄貴ってわけじゃ・・・ないんだよね・・・?」
「女だっつってんだろ!釘打ち機で穴空けんぞ、コラ!」
この言葉遣いで女だって信じろって方が無理だ。
その時はそう思った。
「建築科か。頑張ればいけるんじゃないの?」
所詮他人事だし、適当に答えると、
「あー、あたし高校中退なんだよね。大学はムリっしょ。」
高校中退?
俺的には有り得ない世界だったのでドン引きして、
「そうだな。中退じゃ難しいかな。」
とお茶を濁してやりすごそうとした。
「そこを何とかなんないかね?」
「何とかって言っても何ともならないんじゃないの?」
「そっかー。」
シゲはしょんぼりして足で地面を蹴っ飛ばし始めた。
あまりのしょげっぷりにちょっと気の毒になった。
「そうだ!大検!大検受かれば中退でも大学入れるよ!」
咄嗟に思いついて口にした途端シゲが顔を上げて俺をじっと見つめた。
「マジで!?」
「うん。マジで。」
「すごいじゃん!なんか嬉しい!」
ここからシゲと俺の受験戦争が始まるとは夢にも思わなかった。
「でさ、お父ちゃんに大学行きたいって話してくんないかな?」
何で俺がそんな面倒臭いことしなければならないのかわからず躊躇していると、
「やっぱ大学の大事さって大学生に言ってもらうのが一番効くと思うんだよね、うん。決まり。」
シゲにずんずん手を引っ張られて弁当を食っている棟梁の所に行った。
「お父ちゃん、この人からちょっと話があるんだけど。」
別に俺から進んでする話はない。
まごまごしていると、
「なんだなんだ。彼氏様のプロポーズか。ガハハハハ。」
この娘にしてこの親あり。
冗談きつ過ぎて眩暈がした。
「ばっか。ふざけんな。そういうチャラい話じゃないよ!」
怒るシゲに尻をバシバシ叩かれて早く言えの催促。
仕方が無いので口を開いた。
「えーっとですね。シゲさんがですね。大学に行きたいので大検を受けたいって言ってるんですが、お父さんにお許し願いたいと交渉を頼まれまして。」
棟梁はきょとんとしてた。
「大検てなんだい?」
「事情があって高校卒業出来なかった人でもこの試験に合格すると大学受験出来るようになるんです。」
かいつまんで説明する。
途端に、
「無理だろー。シゲ根性ないもん。高校1年で辞めちゃうし。無駄無駄。第一お前勉強嫌いだろ。大学行って何すんだ?」
豪快に笑い飛ばされたシゲをそっと除き見ると、うつむいて泣きそうになっていた。
「あのですね。シゲさん、大学で建築の勉強したいそうなんです。建築士の資格取りたいって。」
喋れなさそうなくらい小さくなっちゃっていたので、俺が何とかシゲの代弁をした。
「設計とか出来るようになってお父さんの仕事手伝いたいそうです。」
途端に棟梁の顔色が変わった。
「そんなんはいいんだよ。大工は腕一本で食ってくんだから。ガキの手伝いなんかいるかってんだ!。シゲも御託並べる前にまず叩き大工卒業しろ。」
交渉決裂。
「一生懸命言ってくれたのにごめんね。」
シゲに謝られた。
二人で黙ったまま職人さんの飲み終わったペットボトルやらタッパを集めて回って帰宅した。
次の日、差し入れを持っていくと現場にシゲはいなかった。
「ちょっといいかい。」
飲みものだけ置いて帰ろうとすると棟梁に呼び止められた。
「昨日の話なんだけどさ。うちのガキでも大検っていうの受かるもんなのかね。」
当時俺も20そこそこで親心なんてわからなかったので棟梁の言葉を計り兼ねた。
「勉強すれば何とかなるんじゃないんですかね。」
「やっぱり兄ちゃんは塾行ったりして大学行ったんだろ?」
「はぁ。予備校行きましたけど。」
それを聞いた棟梁が腕組みして大きく溜息をついた。
「問題はそこなんだよな。シゲ人見知り激しいんだよ。高校も続かなかったしな。懐いてんの兄ちゃんくらいだわ。」
そういうもんなのか?全然そうは見えなかったけれど。
そう考えていると、
「物は相談なんだけどさ。兄ちゃんシゲに勉強教えてやってくれねーかな?勿論ただとは言わねーから。頼むよ。」
棟梁体ごっついし、片手に丸ノコ持ってるし、断ったらヤバゲな感じがしたので二つ返事でOKした。
その日の翌々日からシゲが勉強をしに家に通ってくることになった。
俺も学校があるので週3回、午後5時から10時まで。
それまで通っていた家庭教師のバイトは暇をもらった。
高1で中退したと聞いていたので失礼ながら相当頭悪いのかと思っていたら、これが中々理解力もあるし、レベルの高い例題もすんなりこなしていくのでびっくりした。
「何だ。シゲ勉強出来るじゃん。」
「だって辞めてからも勉強してたもん。」
とつとつと話し始めたのを聞くとシゲは勉強は嫌いじゃない、むしろ好きらしい。
「じゃあ、学校辞めなきゃよかったじゃん。」
言った途端、シゲの顔が急に曇った。
「うっさいな。色々あんだよ。」
この時は知る由もなかったがシゲが退学した原因は後々知ることになる。
大検用テキスト3周終わって、何とか目処がつき始めたので英語のリスニング問題に取り掛かった。
いつもダイニングの対面に座って教えていたのだけれど、リスニングの時だけは椅子をちょっとずらしてテーブルの上のデッキに右耳を近づけるようにして聞いていた。
「お前まっすぐ座って聞きなよ。姿勢悪いとカンニング疑われるよ?」
格好が面白くって思わず笑いながら言うとシゲがあっけらかんと答えた。
「言ってなかったっけ?私左耳聞こえないんだよ。
学校でビンタされて鼓膜破れちゃってさ。医者行かなかったんで駄目んなっちゃった。」
「ちょっ、馬鹿。医者行けよ。鼓膜くらい直んだろ。」
「そんなことしたら親に心配かけんだろ。わかってねーなー、もう。」
「ごめん・・・」
謝るしかなかった。
シゲも死に物狂いで勉強したので、余裕とまではいかなかったけれど大検はクリアした。
本人も飛び上がっていたが親父さんが男泣きするくらい喜んでいた。
でもこれは通過点に過ぎない。
本人がどうせ取るなら二級じゃなく一級建築士だと言い張るので、実務経験が少なくて済み、かつ技術的に高度なことが学べる学校を探して受験した。
結果、不合格。
「やっぱバカはバカなんだ。何やってもバカはダメなんだ。」
とオイオイ泣くので、
「俺だって一浪だし何とかなるよ。」
と根拠のない慰めでもう一度トライ。
自分の卒論落としかけてまでシゲの受験勉強に没頭した。
2年以上みっちり一緒にいて危ない橋を渡っていると、不思議なものでつり橋効果のせいかお互い何だか好きかも知れないと思い始めて、ふざけてキスしたりしていたある日、
「悠(俺の仮名)って童貞?」
「何言ってんの!?違うよ!」
「えー、何か童貞くさい。」
「うっせ、セックスくらいしたことあるって。」
「本当?」
「2回ある!」
変なツボに入ったらしくてゲラゲラ笑い出すシゲ。
「全然手出してこないから童貞だと思ってた。でも2回って・・・2回って・・・ゲラゲラゲラゲラ。」
いたく自尊心を傷つけられて言い返す。
「バカシゲ。どうせ俺はお前みたいなビッチと違って限りなくピュアに近いです。ヤリマンは巣に帰れ!帰って犬とでもやってろ!」
「てめ、ヤリマンとか言うな!あたし男となんてしたことないよ!死ね!なんちゃって童貞!」
母親にふざけてないで勉強しろと怒られたが、毎回こんな調子で半分勉強、半分おしゃべりで1年が過ぎていった。
1年後「どうせダメ。落ちてるに決まってるし。」
としり込みするシゲを連れて親父さんと一緒に合格発表を何回も見に行った。
ランクを落とすよりは上げて失敗した方がいいというシゲの男っぷりで駄目元で受けたところだけ合格していた。
「大金星だなぁ」
と親父さんはオイオイ咽び泣く。
シゲは狐につままれたようにきょとんとして、
「悠、ほっぺたぶって。」
と言うので思いっきりビンタしたら、
「何すんだ、この野郎!」
とキレられ三倍返しされた。
何にせよめでたいシゲの門出だった。
寿司屋で祝杯を上げた後、親父さんはへろへろになっちゃってシゲのおふくろさんに抱えられて帰っていった。
取り残された俺とシゲ。
「どうする?もうちょっと飲む?」
「お酒もういいや。少し歩きたい。」
半ば千鳥足で二人して笑いながら月の下を歩いた。
「あのさー、悠に何かお礼しなきゃまずくね?」
「いいよ、別に。兄ちゃん家の窓ただで二重サッシにしてもらったし。」
「そういうんじゃなくってさー。もうちょっと何かさー。」
「じゃあシゲが建築士になったら俺の家設計してよ。何年先になるかわかんないけどさ。」
「しょーがねーなー。設計料50%オフでやってやっか。」
夢に溢れたシゲの顔を見ているのがとても楽しかった。
俺は俺で教員採用試験に落ちて凹んでた最中だったので尚更だった。
気がつくとホテル街に差し掛かっていた。
「ここってさ。みんなHするために来てんだよね?」
「そりゃそうだろ。そういうとこだもん。」
「何か変な感じ。」
「行きなれてそうなお前が言うほうが変な感じだって。」
「したことないって言ったろ!忘れたん!?」
「そうだったそうだった。ビッチシゲはまだ処女だった。」
茶化しながら通り過ぎようとすると、
「よくさ、休んで行こうかとか言うって言うじゃん。でも実際は運動するんじゃないの?」
面白いこと言うなと思った。
数えるくらいしか経験ないけど確かに休憩じゃなくて運動だ。
ふざけ半分で、
「何なら俺と運動してくか?」
ご機嫌で歩いてふと横を見るとシゲがいない。
振り向くと10mくらい後ろで下を向いてたたずんでた。
「ごめん。ごめん。嘘だって。」
好きと言ってもシゲは女というより男友達みたいなもんだったので冗談が過ぎたかなと後悔した。
そうしたら、
「いいよ・・・」
「は?」
「悠とだったらいい。」
さっきまでとは打って変わったシリアスな雰囲気に気おされて、
「運動って言ってもラジオ体操とかじゃないよ?」
とボケをかますも、
「そんなんわかってるよ!黙って連れてけ!」
シゲ主導でホテルに入った。
「STAY13000円だって。悠お金持ってる?」
「ちょっと待って、やべ、俺10000円しか持ってない。帰ろう。」
「大丈夫あたし6000円持ってる。足りるじゃん。」
フロントパネルの前で間抜けな会話をしてたら後からきたカップルにくすくす笑われた。
システムがよくわからなくてまごまごしながらエレベーターに乗ってなんとか部屋にたどり着く。
いきなり鳴る電話に二人してびびったり、エログッズカタログ見て笑ったり中々事には及ばなかった。
別々に風呂に入ってカラオケして飽きてきた頃シゲがボソっと言った。
「あのさ。あたし男の人としたことないって言ったじゃん。」
「うん。処女なんだろ?冗談抜きで。」
「そうなんだけどさ。悠としても血出ないかもしんないの。」
「へ?」
何言ってるのか全然わからなかった。
処女なら出血するもんじゃないのか?
経験値低いから知識不足なのか?
「あのね。高校のときあたしいじめにあっててさ、無理矢理ボールペン入れられちゃったんだ・・・」
「・・・・・・・」
「こんな相手じゃ嫌だよね?」
そっか。
シゲが学校やめたのも肩耳聞こえないのもいじめられてたせいなのか。
その時全てのピースがつながった。
「ばっかだなー。そんなのノーカンみたいなもんだろ。シゲはまだ処女だよ。」
泣き出しそうなシゲをくすぐり攻撃して無理矢理笑わせて服を脱がせた。
「仏の顔も三度までって言うじゃん。俺も2回しかしてないからギリ童貞ね。」
全然ロマンチックな初体験じゃなくて悪かったんだけれど、シゲの初めては俺が貰った。
心配していた出血もちゃんとあった。
翌朝シゲを送っていって親父さんに怒られるかと思ってたら、
「なんだい。おまえらようやくかい。」
とあっさり言われて拍子抜けした。
その後、俺は教職に見切りをつけ、シゲの実家を手伝いながら建築の専門学校に入りなおした。
全く畑違いの分野なので戸惑うことも多かったが、シゲと一緒に現場に出たり実習計画練ったりするのは今までにない充足感が得られた。
実家からの通いで勤務してたのだが、親父さんの、
「おまえうちに住んじゃえよ。どうせシゲと結婚すんだろ。」
の一言で何となく結婚が決まり、あれよあれよという間にシゲと連名で建築事務所を構えることになった。
受験勉強していた頃の約束通り自宅はシゲの設計だ。
相変わらず口は悪いが配偶者としても仕事上でもシゲは最良のパートナーだと思っている。
ダイエットコークに乾杯。
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